心結び

□19,世界のへそ
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丘の上で、サザンドラが一人呟く


「…青い空…
流れる雲…
常々思うんですが…
ここから見る景色は…
いつ見ても和みますねえ…
はああああ…」

寝転がって微風が頬を撫でるのを、サザンドラは気持ちよさそうに笑っていた

「日が落ちるまでもうずっとここで寝ていたいですよ、ええ…

いいところですよねえここは…
本当に…

ん…?えっ…?」

突然、何かに気付いたサザンドラが、辺りを見渡す


「何でしょう…?
今の感覚は…

ん…?
んんんんー?」

虚空を眺めて首を傾げるサザンドラ

「んんんんんんんんんんんんー?」

少し飛んで、不思議な感覚がする方へ近付く

暫く様子を伺う様な素振りを見せると、丘の上にやって来る他のポケモンにそれは中断された

「あっ!いた!あんなところに!
ねえ!サザンドラ!」

それに気付いたサザンドラが、ノコッチの近くへと戻っていく

「何か妙な飛び方してたけど何してたの?
空中で探し物?」

「い、いえ
ちょっと気になることがありましてですね…
そういうノコッチさんこそどうしたんですか?
私に何か…?」

「うん、そうなんだ
実はサザンドラに相談があって…」

「相談…ですか…?」



次の朝…




いつも通り、依頼をこなす

昨日はついつい戦闘中にまで葉月のことを考えてぼーっとしてしまったから、今日は気を引き締めないと

皆に迷惑はかけられないし


適当に依頼を引っ付かんでマリルリに渡す

「今日はこの依頼ですね」



いつも通り私は、皆に依頼内容を伝えて現場へ向かった



「あっ!卯月!」

依頼が終わったから、家に帰ろうとした時だった

エモンガが私を呼び止めた

「あれ?エモンガ?
どうしたの?」

エモンガは何故か回りを確認してから、話し出す

「なあ卯月
サザンドラを見掛けなかったか?」

「サザンドラ…?
いや…見てないよ…?
探しているの?」

「ああ…
昨日食堂でサザンドラと一緒にお昼ご飯を食べたんだけど…
あいつ大食いでさあ…
食べ過ぎでお金足りなくなっちゃったんだ…
結局ママさんに頼んでツケにしてもらったんで後日改めて二匹でお金を出しあってママさんのところへ返しに行こうってことになってたんだけど…
サザンドラのやつ…探してもどこにもいなくてさぁ…
まさか…!?あいつ食事代を払わないつもりじゃ…?」

「そんな!いくらなんでもそれはないと思うよ?
判った、サザンドラを見掛けたらさっき言ってたことを伝えるよ」

「ああ、よろしく頼むぜ
オレももう少し探してみるよ
しかしどこ行っちゃったんだろうな
本当に…
あんなに宿場町とかパラダイスとか好きだとか言ってたくせによう…」

エモンガはぶつぶつ言いながら去っていった



そしてまた、朝がやって来る


「あれ?エモンガ?」

家を出ると、待っていたかの様にエモンガがいた

サザンドラのことだろうか

「おはよ
サザンドラは見付かったの?」

「いや…、それが全然見付からねえんだ…
宿場町もパラダイスも隈無く探したけど全然いねえ…」

エモンガの後ろで、キラキラと光る何か

直ぐにそれはサザンドラの姿になった

「全くどこ行っちゃったんだよもう…」

後ろ…

「左を見てもいないし…」

エモンガとサザンドラが同時に左を向く

「そうですねー」

「右を見てもいない…」

サザンドラの声にも気付かず次は右で同じことをする

「確かに誰もいませんね…」

「ああもう、このままだとオレママさんの信用を無くしちゃう…
美味しい料理も…食べさせてもらえなくなっちゃうよ…」

「ええーっ!?
マズイですよ!それは!?」

「さ、サザンドラ!いつの間に!?」

やっと気付いた


「あんな美味しい料理他にありませんよ!?
それが食べられなくなるなんてー!
そんなー!」

「な…!
なんなんだよ!お前は!?
そもそもサザンドラのせいだぞ!?
料理が食べられなくなりそうなのは!?」

「へっ?」

「後で一緒に食事代を払いに行こうって決めたじゃないか!?
どこ行ってたんだよ!?お前!?」

「…あっ…」

「あっ…じゃねえよ!
もしママさんの…
ママさんの料理が食べられなくなっちゃったら…
お前のせいだからな…!
ううっ…ううううっ…」

目の前で繰り広げられる会話に、私は苦笑いするしかない

「わわっ!すみません!!
そんなつもりでは!?
私ちょっと調べたいことがあってここを離れていたんです!」

「調べたいこと?」

「ええ、それもあって…
確かに食事代のことはすっかり忘れてましたが…」

「お前!やっぱり忘れてたんじゃないか!」

「わわっ!すみませんすみません!
お金は今すぐ払いに行きましょう!
それから…仲間の皆さんも食堂に呼んでください」

「皆も食堂に…?
お前!まさか!?
仲間から食事代を集めるつもりじゃ!?」

どんだけ疑うの

「ち、違います!違います!
私皆さんにお話したいことがあるんです!!」

「お話したいこと…?」



訳が判らないまま、私達は食堂でサザンドラの話を聞いた
そして、驚いた


「葉月が…!?」

「葉月がこの世界にいても大丈夫な方法が…」

「あるかもしれないだって!?」

「はい、もしかしたらですが…
葉月さんがあのままここに居続けると世界に歪みが出てしまう…
葉月さんは人間の世界へ帰ることを宿命づけられていました
そして私も、それは絶対に変えられない定めだと思っていました
でも…もしかすると…
その定めを変えることが出来るかもしれないのです」

「ほ、本当に!?」

「ええ、ノコッチさん
調べてみて私も吃驚しましたよ」

「あ、ありがとう!サザンドラ!」

何かを知っている様なノコッチに、一同首を傾げる

「あれ?なんでノコッチがサザンドラにお礼を言ってるんだ?」

「ボクがサザンドラに相談したんだ
葉月さんがここにいても大丈夫な方法を…
葉月さんをこの世界に呼んだのはサザンドラだからね
だから相談すれば何かいい方法が見付かるかもって思ったんだ」

「そうなんです
私はノコッチさんに相談を受け、それを調べるために宿場町を離れたのです
決して食い逃げしようとか思っていた訳ではありません
ママさん信じてください
私は食い逃げするようなポケモンではありません
ママさんの料理が食べられなくなったら…
私はもう…だからわた…「いいわよもう
私はあんた達がそんなことをするなんて全然思ってないし
それより早く続きを聞かせて」」

ママさんの人の良さにサザンドラが涙ぐんだところで、話は先へと進んでいく


「えっと…そもそも私は…
葉月さんがこの世界に残ることは自然の法則を壊すものであり、変えられぬものだと思っていました
しかしその自然の法則が、ここに来て変化していることも感じたのです
その切っ掛けとなったのが
皆さんが葉月さんを忘れずに覚えていたことです
これは私にとって大きな驚きでした
皆さんの思いの強さが自然の法則を乗り越えてしまったのですから
本来なら有り得ないことが起きてしまっている…
であれば葉月さんのことも可能性があるのではないか
私ももう一度…葉月さんに会いたい…

丁度その時、ノコッチさんから相談されたこともあり…
私はここを離れたのです
葉月さんを再びこの世界に招いても大丈夫な方法を探るために…
私は各地にいる様々な命の声と交信し、情報を集めました
そして、ある一つの可能性にたどり着いたのです」

「一つの…可能性…?」





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