心結び

□17,光の球
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宴は終わり、またいつもの日常に戻った


てっきり直ぐに元の世界へのお迎えが来るのかと思っていただけに、少し拍子抜けしている

身体は相変わらず悲鳴をあげていて、僕と卯月は一緒に休ませて貰っているけれど、それが何だか有り難かった


怪我も漸く癒えた頃、僕は夜中、何だか不安になって外に出た


卯月は当然家で寝ている

不安の正体も判っていた

直ぐに迎えが来なかったということは、何か他のタイミングを待っている

恐らくそうなんだろう

そして、そのタイミングは…


丘の上で、月を見上げる



「葉月さん…」

「…サザンドラ…」


やっぱり、君か

何とはなしにそう呟いた


「葉月さん
改めまして…
世界を救っていただき…
私の願いを聞いていただき…
本当にありがとうございました
そして…葉月さんの…
この世界での役目も終わりました

…つまりそれは…

えーと…大変申しにくいこと何ですが…
人間がここにずっといると…
世界に歪みが出てしまう訳でして…」

「…つまり、帰れってことでしょう?」

「な…!
帰れとは言っていませんよ!
ただ…帰らなければならないんです…」

「…大丈夫、判ってるよ」

判っていた

きっとそうなると

氷触体だって、そう言っていたし


「葉月さん…
私悲しいです…
私葉月さんに情がうつってしまった様です…
でもすみません
こればかりは仕方がないことなんです…
葉月さんも沢山心残りがあると思いますが…」

心残り…か…

卯月との…約束が守れないこと…

それが、一番心残りだ

ずっと一緒にいる…

それが、守れないこと…

「ぐすん…ここを離れるのは明日です…
光に包まれて…天に昇っていくんです…」

「…そっか」

僕の顔は冷静だった

卯月に出会う前に戻ったみたいに、ポーカーフェイスを張り付けていた

「もう一つ
悲しいお話が…
葉月さんが光に包まれた時…
この世界に葉月さんがいたという記憶は…
ポケモンの皆さんの記憶の中から…
全て消えてしまいます」

「…」

そう…なのか…

そうか…じゃあ皆…悲しまなくて済むんだ

良かった…


驚く程冷静な感情だった


もう、覚悟していたからかもしれない

やっぱりという気持ちだけを感じた


「本当に…本当に悲しいことで申し訳ないのですが…
私は命の声ですので…
葉月さんのことを忘れることはないのですが…
でも…他の皆さんは全て…ううっ…」

「…君は覚えているのか…
いいんだよ?僕のことなんか、忘れてくれて」

「嫌です、忘れたくありません…
私が忘れてしまったら…本当に葉月さんがこの世界にいたことが…なかったことに…」

サザンドラのその言葉だけで十分だ

僕は、涙を流すサザンドラの頬から、その一滴をつるで掬った

「…泣かないでよ
僕は大丈夫だから」

「明日は…私も途中まで見送ります
ううっ…
今…皆さんに…別れの挨拶をしますか?」

「いや、しない
無駄に悲しませる様なことはしたくない」

「…そうですよね…
辛い思いはさせたくないですものね…
判りました…
では明日の朝、この丘に来てください
一緒に行きましょう」




僕は、その後もまだ暫く丘に止まった

ここから見える景色も、もう見れなくなる

夜の宿場町を歩き回り、誰もいない寝静まった町でこれまでの事を思い出す


ビリジオンがやって来た時のこと

僕は失言して丘の上に逃げていたっけ


卯月は、そんなことがあっても毎回追い掛けてきてくれたな

だから僕は、卯月を信じたくなった


約束、したのも丘の上だっけ


破ることになるんだな

ごめん、卯月

でも、卯月の中に、僕は残らない

悲しい思いを、させずに済む


僕だけが、悲しい思いをすればいい

それで、いいんだ




サザンドラと話した後、長めの時間を掛けて家に戻った

ベッドで寝ている卯月を暫く眺めて、眠った




眠れる訳はなかったけれど





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