心結び

□16,奇跡を起こせ
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「はあ…はあ…」

「はあはあ…
ここを抜ければ一番上まで行けそうだね…
はあはあ…
この先に氷触体があるんだ!」

卯月の息が荒い…

僕とはまた違う理由で苦しいんだ

目の前の塔の入り口は、風が吸い込まれる様に入っていく

何もかもを飲み込もうとするかの様だ

「葉月
私なら大丈夫だから、ちょっと苦しいけど我慢出来る
いや、我慢しなくちゃ
葉月は…もっと苦しいんだから…
最後まで精一杯サポートするから…!
頑張ろう!葉月!」

僕も精一杯、世界を救う為に動くよ



僕達は二匹で先へ進んだ

この先には、キュレムが待ち受けている筈だ

気は抜けない


この世界の全ポケモンの命を、僕が預かっている

キュレム、僕は意地でもこの世界を救わなくちゃならない
でなきゃ、隣で頑張っている卯月に示しがつかないんだ

荒い呼吸の卯月を、これまた荒い呼吸の僕が引っ張って、ひたすら奥を目指した

「卯月…キュレムは…僕一人じゃ無理だ…」

「うん、判ってるよ…
だから、私がいるんだよ葉月…
はあはあ…」


強く、卯月の手を握り締めた


階段を登る

卯月が辛そうだ

「はあはあ…はあはあ…」

「卯月…
はあ…はあ…」


手を差し伸べる

卯月は、僕の手をしっかり握って先へ歩き出す

無理をする卯月が心配で、僕は顔を歪めていた

「はあはあ…
ここが塔の頂上なのかな…
かなり広いけど…

あ…!葉月!あそこ!」

前を見る、何だか嫌な風が吹き込んでいる

「あの先…っぽいね…」

ふらつきながら先へ

「待てっ!!」

大きな声が響いた

キュレムだ

しかし姿が見えない

辺りを見渡し、警戒する

「あ、後もう少しのところなのに…!
出来ればキュレムとは出会わずに行きたかったのに…」

「確かにその奥には氷触体がある…
しかしっ!!
そこへ行くことは…許さんっ!!」

光、そして進む先と僕達の間に邪魔する様にドスンと大きな音をたてるキュレム



「キュレム…!!」

「言った筈だっ!
まだ世界を救う意志があるならば…
その時は全力で叩き潰すとっ!!」

「例え、叩き潰されようとも…
納得出来ない!
こんなに頑張って前を向こうとしている卯月達がいるのに!
この世界がなくなるなんて…そんな悲しい未来!納得出来ない!」

「諦めろっ!!
どう足掻こうが未来は変えられぬっ!!」

「違う!!
未来は自分で…切り開くものだよ!!」

「小さな運命ならその手で変わることもあるだろう!
しかしっ!
大きな運命の中では所詮は誤差!
大きな運命は定められたものなのだっ!」

前傾姿勢で、今にもぶつかりそうな雰囲気だ

僕達の呼吸は荒い

「そんなことない!
誤差が重なれば大きな運命も変わる!
奇跡という名前に変わる!!」

「ならば今!
起こしてみろっ!
その!奇跡というものをっ!!」



キュレムの怒号が響き、冷気が辺りを包み込む

グレッシャーパレス自体が寒いというのに、キュレムの冷気はその更に上をいく

寒い気候が苦手なツタージャの身体が、凍り付いた様に重くなった

踏みつけられた時のことが脳裏にフラッシュバックする

胸が痛んだ


「く…ぅ…!」

卯月のうめき声が聞こえる

恐らく、これは凍える世界

もう戦いは始まっている


「葉月…!」

苦しい

隣で同じように苦しみに顔を歪めて、僕を呼ぶ卯月


苦しいから動けないと誰が決めた

僕は、立っているのも辛い身体で、凍える世界のあまりに冷たい風に逆らって前へ進んだ


「なぜ向かってくる!?
これ以上ない程傷付いた筈だ!
無駄に苦しむのはやめろ!」

「無駄…?
無駄かどうかは…僕が決めることだ」

キュレムを睨み付ける

運命は変えられないなんて誰が決めた

自分の運命は自分で決める

「グォオ!!」

キュレムが咆哮をあげて爪を振りかぶる

切り裂くが来る

後ろに感じる気配を信用して、僕は動かなかった

柔らかいものに抱き締められ、そのまま一緒に前へ滑る様にして切り裂くを潜り抜ける

勿論、柔らかいものは卯月だ

「はあはあ…」

「ありがとう卯月」

お互い、相変わらず息は荒かった

けれど、顔を見合せ、卯月は精一杯笑った

地響きが起こる

キュレムの巨体も、僕達も、揺れに耐える為に一時止まる

そして地響きが収まると同時に、双方攻撃が再開される

キュレムの竜の息吹が、足元にいる僕達向けて放たれ、それに対抗するべく卯月の電気ショック、僕のグラスミキサーが重なってぶつかり合った


爆発が起き、小さな僕達だけが飛ばされる

痛みに呻く僕達に、キュレムの巨大な足が迫った

「っ!」

衝撃に備える卯月、僕は卯月を庇う様に前へ飛び出し、キュレムの足を横に払う様にリーフブレードで斬り込む

全力を込めて漸くキュレムのバランスを崩すと、驚いた顔をあげた卯月を助け起こした

「大丈夫なの?葉月…」

「はあはあ…
大丈夫じゃないけど」

卯月が危ないと思ったら勝手に身体が動いてね

照れ隠しにならない照れ隠しだったが、卯月のことを思ったら身体を動かせた

さっきの笑顔が、卯月の最後の笑顔にしたくないから

もっと笑っていてほしいから

「くぅ…!」

ゆっくりと起き上がってくるキュレムに再び向き合う

「やるな…
少し見くびっていた様だ」

ここでのバトルは、いつもより全然苦しい筈なのに、卯月もまだ戦う意志があった

「だが…ここまでだ!!」

全力の攻撃が来る

キュレムの言葉と気迫が直ぐにそれを悟らせた

「卯月!」

「っうん!」

僕達もそれに全力を込めて立ち向かう

避けるなんて野暮なことはしない

僕達の全力を、気持ちをキュレムに見せる

さっきの比ではない威力の竜の息吹が、放電、そしてリーフストームとぶつかった


技と技がぶつかり合う激しい音が辺りに木霊する

競り合いはキュレムが優勢だった

「私はっ!
頑張って前を向いてるポケモン達を知ってる!
そんなポケモン達まで消えちゃうのは嫌だよ!」

叫んだ卯月が放電の火力をあげる

キュレムがそれに少し押される

僕は何も言わなかった

胸がいっぱいで、言葉なんか出てこなかった

胸の奥が熱くなって身体に力が宿った様に思えた


そして、キュレムを押し返し、大きな爆発が起こる


「はあ…はあ…」

「やった…?はあはあ…」

爆風が無くなり、キュレムの姿が見えた


床にぐったりと伏せるキュレム、どうやら力尽きた様だ

「…はあはあ…
葉月、早く氷触体のところへ…」

「うん…
はあ…はあ…」


キュレムの横を通り過ぎる


「ま…て…

お前達の気持ちの強さは判った

だが、お前達がどんなに足掻こうとも…
それでもやはり…未来は変えられないのだ…

しかし…
その気持ちの強さの先に…何があるのか…
それを…見てみたい気もする…」

「え…?」

「見せてみろ…お前達の意志を
お前達の魂を」

「…判った、ここで見守っててよ!キュレム!
私達の意志を!
行こ!」

僕達は、おぞましい風の入っていく奥へ、向かった



奥は、邪悪な風で溢れ、氷の欠片がいくつも辺りを漂っていた


そんな異空間の様な場所に、一つ、大きな結晶があった

「あれが…氷触体…!!」

「く…苦しい…」

「卯月!!」

流石にその場に倒れ伏せてしまった卯月の身体に軽く触れる


「これは…
これは…ただの風ではない…」

聞こえて来たのはキュレムの声だった

仕組みは良く判らないが、その声に耳を傾ける

「この風はポケモン達の負の意識
失望の風だ」

「失望の…風…?」

「そうだ
不信感や絶望…そして諦め…
そんなポケモン達の負の意識を氷触体は風として吸収している
そしてまたそれが大きな渦となり多方向に吹き荒れている…

氷触体は失望の風をエネルギーに変え成長しているのだ」

そうか…失望の風は負の意識そのもの…

卯月は失望の風の影響を受けて…
息苦しさが増しているのか…


「…葉月…
私はいいから…早く…
早く…氷触体を…」

そうだ、氷触体を破壊出来れば全てが解決する

僕はゆっくりと氷触体に近付いた

「っ…!」

苦しい、急に息が…

何故、僕まで

人間でも影響を受けるのか…?


息が上手く出来ない

身体の痛みに加わった苦しさに、僕も前へ進めなくなった


これが、負の意識の苦しさ…
でも…それでも…

卯月よりは…ましな筈だ…!


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