心結び

□12,救出作戦
1ページ/2ページ



「ここからが風穴の丘です
この丘は所々に穴が空いていて…
大きなものから小さなものまで、皆洞窟として繋がっているんです
隠れる所も沢山あるので不意討ちを仕掛けるには持ってこいの場所でしょう」

「…そうか」

僕達は、卯月を助ける為に風穴の丘に来ていた

「さっきも話しましたが、これは罠に違いないです
多分ムンナ達はここの頂上で待ち構えているのだと思います
もしかしたら私達がダンジョンを進む途中で…何かしら仕掛けてくるのかもしれません
十分注意して行きましょう」

「…僕のことは諦めて、他の人間を探すことだって出来るはずなのに、どうして僕に付き合うの?」

「ははは、やだなあ葉月さん
もう私達だって友達でしょう?」

予想外の言葉に、驚く

「友…達…」

「さあ、行きましょう
早く助けてあげましょう、卯月さんを」

「…ありがとう」


判らないけれど、何だか胸が熱くなった

ぎゅっと、左手で左胸を押さえて握った


風穴の丘を進み始めて、まだそんなに経っていない時だった

「っ!サザンドラ、あれ」

「これは…?」

そこに落ちていたのは、フリズムだった

白く凍っている

恐る恐る、温めてみる

「フリズムは大変珍しいもの…
この風穴の丘に普段落ちていたりすることはありません」

「つまり、誰かがわざとここに置いたのか」


音が流れ始める

《お前達!
どうしてこんなことを!?》

「う、卯月の声だ…!」

《ムンナは葉月に助けを求めたんじゃなかったの!?
なのにどうして!?》

《フン!
ありゃ騙す為の演技だよ!
葉月はこの世界に居てはいけないんだ!
だから誘きだして排除する!》

《葉月が…この世界に居てはいけないって!?

うぐっ!》

殴られる音がした

自分でも驚くくらい、その音に動揺してしまう

《ドクドクドクっ!
一々煩いロッグ!
大人しく捕まってろロッグ!》

《うぐぐっ…》



音はそこで終わっていた


「入っていた音はこれで全部の様ですね…
やっぱり卯月さんは捕まっていたんですね
来たのは正解でした」

「くっ…」

「葉月さん
この先どんな罠が仕掛けられているのか判りませんし、そうでなくても敵は多く、分が悪いことには変わらないです
とにかく敵に見付からずに卯月さんを探しだし
なるべく戦わずに脱出する…
助け出す道はそれしかないでしょう
慎重に作戦を練って行きましょう」

サザンドラの言葉で、落ち着きを取り戻す

黙って頷いた

フリズムに視線を向けながら


僕達は、慎重に先へ進んで行った

そして、気が付くと随分奥まで進んでいたらしい

「葉月さん、見えてきました
もうすぐ風穴の丘の頂上です
気を付けて行きましょう」

しっかり敵の姿が見える

ドクロッグとムンナが、こちらからは岩影となっている場所に話し掛けている

「ドクドクドクっ!
捕らえられた気分はどうだロッグ?
…フン、答えたくないか
まあいいロッグ

しかしムンナ様
奴等いつ仕掛けて来ますかね?
夜になるのを待ってから動きますかねロッグ?」

「確かに前は暗闇の混乱を利用して逃げられたが…
でもどうかな
同じやり方が二度も通用するとは葉月も思っていないだろう

まあ…あの時の…
機転を効かせてお前がシャンデラを攻撃したのは見事だったがな」

「ムンナに褒められたって嬉しくないよ」

卯月の声だ

「それよりも…
お前達に葉月を捕まえることは出来ないよ
絶対に」

「ドクドクドクっ!よく言う!
キサマ今の様が判ってるのかロッグ?
こんな情けない状態で捕まっているじゃないかロッグ」

「確かに私は捕まっちゃったけど…
でも葉月は私とは違う
葉月は捕まらないよ
絶対に」

「フフフッ、どうかな?
まあとにかく、奴等が来れば判ることだ
今度こそ逃がしはしないよ
向こうはこっちの隙を必ずついてくる
もしかしたら長期戦になるかもしれないが…
それでも絶対に気を抜かず見張るんだぞ」

「了解ですロッグ!ドクドクドクっ!」


そして、時は少し流れ……


「あーもう、暇だロッグ…
あいつら…いつになったら現れるロッグ…」

「お前達に葉月を捕まえることは出来ないよ」

「ああもう!
いい加減その台詞は聞き飽きたロッグ!
煩いから黙ってろッグ!」

カタ…コロ…

「ん…?何か今…向こうから物音が…
ちょっと見てくるか…
んー、なんだ?
石が転がっただけみたいだロッグ
驚かせやが…うわっ」


ふぅ…


ドクロッグを誘きだして気絶させることに成功した

ここまで潜り込むのに随分苦労した

卯月の声がした方へ走る

「こ、これは…」

フリズム…!!

「フフフッ…どうやら引っ掛かった様だな…」

辺りをすっかり囲まれていた

ドクロッグも起こされて、ムンナと一緒にいる

「おおいてえ
わざと殴られるのも楽じゃないロッグー」

「フフフッ、気が付かなかった様だな
卯月の声をフリズムに入れ…
卯月とフリズムをすり替えたのは」

逃げ道を探す

間合いをゆっくりと詰められる

当然、逃がすつもりはない様だ

「無駄だ
逃げる隙はない
前はシャンデラを攻撃し、暗くなった混乱をついたが、生憎今は明るい
今回はその手も使えないぞ
クククク…
葉月!今度こそ…
今度こそ!逃がしはしない!!」

「…」

こんな時でも、僕は冷静だった

「あれ、そういえば…サザンドラがいないにゃっと…」

「確かに…!」

「構わん!葉月さえ始末してしまえば…!」

ムンナの声に、動揺していたポケモン達は再びこちらに集中する

「サザンドラはどうせ、他の人間でも探しに行ったんだろう
葉月!
お前だけでも先に始末してやる」

「…出来るものなら…ね」

こんな状況でも、僕は戦う意思を貫いていた

「そうか、卯月はこっちの手の中にあることを忘れたか」

「…!」

「フフフッ、少しでも抵抗してみろ
卯月がどうなるか…判るな?」

卑怯だ

思いながらも、僕は何も言わなかった

「やれ、ドクロッグ」

「ドクドクドクっ!
お前には散々苦労させられたからな
苦しませてやるロッグ!」

「…ちょっと待ってくれ」

「なんだ?命乞いか?」

「違う」

どうやら話しを少しは聞いてくれる様だ

「サザンドラから話しは聞いた
卯月は人間じゃない
だから、…殺すのは僕だけにしてほしい
卯月は僕がいなければ関係ない筈だ」

「…いいだろう
こっちもあまりポケモンは殺したくないしな」

「…ありがとう」

「もういいロッグ?」

少し考えてから、黙って頷いた

「んじゃ、行くロッグ!」

少しの抵抗も許されていない

その場で強く目を閉じた



腹部に強い衝撃が走る

「グフッ…!」

口から血を吐く

次に感じたのは強い目眩

ドクロッグの手が離れてその場に崩れ落ちる

手足が全く動かない

意識も持っていかれそうだ

これは…毒…?

「ドクドクドクっ!
どうだ?俺の毒突きの味は」

殺す気で使う毒は他のものと全然違う

呼吸するのもやっとの状況だ

苦しませてやると言ったのはこういう意味か

「よし、卯月を連れてこい」

手下の一匹が、何処かの穴に引っ込む

「ゆっくり死んでいく恐怖を味わうロッグ」

死が近付いて来るのが、なんとなく判る

逃れられない恐怖は、薄い意識の中でもはっきりしていた

「は、葉月!」

朦朧とする意識の中、ずっと聞きたかった声が鼓膜を揺さぶる

「約束だ、卯月は解放してやる」

「葉月…どうして…」

「う、上だロッグ!」

やっと来たか…遅いよ…サザンドラ





,
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ