心結び

□11,卯月の行方
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「はあはあ…はあはあ…」


僕はただ逃げていた

ダンジョンの中をたった一匹で敵を蹴散らしながら

一つのダンジョンを抜ける

疲れでつい立ち止まった

直ぐにまた進む

「なっ…!」

行き止まり!?

崖だ…それもかなり高い

飛び降りるのは厳しい

「しがみついていけば行けるか…?」

「ドクドクドクっ!
おーい!いたぞ!!」

不味い、見付かった…!

後ろを振り返れば、ドクロッグとシャンデラ、そしてギガイアスがいた

「ドクドクドクっ!
とうとう追い付いたロッグ!!
どうやら向こうより早く仕事が終わりそうだぜロッグー!」

向こう…?

ということは…

卯月は…まだ無事だということだ!

それなら…!

「ドクドクドクっ!
観念しろロッグ!!
お前はここで…くたばるんだロッグーーーー!!」

僕はまだ死ねない!

素早くドクロッグに飛び付いて、先制でリーフブレードを食らわせる

「ぬぐぅ!?」

今一つだが、少しの隙さえ作れればいい

僕はバッグの中から念のために持っていた一つの不思議玉を取りだし、使った

「食らえ…!ふらふら玉!」

眩い閃光が起きて、ドクロッグとシャンデラとギガイアス
全員が混乱状態になる

僕の出せる技で、ドクロッグとシャンデラに対して有効打となりうる技、追い討ち
これの威力を底上げする為、そして勿論、上手く行けば同士討ちだって期待出来る

めげずに攻撃しようとしてくるドクロッグに追い討ちを当てて後ろに回り込む

待っていたかの様にやって来たシャンデラの弾ける炎を避けて、代わりにドクロッグが悲鳴をあげる

ギガイアスの打ち落とすも、的外れな方向へ飛んで行った

全く滅茶苦茶だ
混乱状態の恐ろしさがよく判る

「よ、よくもーっ!」

混乱から脱したらしいドクロッグが攻撃してくる
三匹の丁度間にいる僕を、ドクロッグだけが正確に狙っていた

「…っらぁ!」

身長差を利用して屈んで避け、ドクロッグの顎目掛けて再びリーフブレードを叩き込めば、大の字に倒れて伸びた

「こ、このお今度こそ…!」

シャンデラがもう一度弾ける炎を出す

もう一度避けようと身体を前傾にすると、疲れでがたの来ていた身体は転んだ

「い、今でゴワス!」

「くっ…!」

踏みつけようとして来たギガイアスの足をギリギリ転がってかわす

肩で息をしながら、ギガイアスにグラスミキサーで攻撃

混乱から抜け出せない二匹が、ゴツンとぶつかって倒れた

「はあはあ…」

今の内に…逃げよう

疲れで重たい身体にムチ打って、必死に足を動かした

「に、逃がすものかロッグ!!
だ、誰かいないかぁーーーー!!
ここに!
葉月はここにいるロッグーーーーっ!!」

その言葉に、地面から更に二匹現れる

ドリュウズだ

「くっ…!」

身体はろくに動かない

グオオオォオオ!!

な、なんだ…!?

空から何かの鳴き声

それがこの崖の上で着地する

ボーマンダ…もう最悪だ

万事休す…

「ドクドクドクっ!!
いいところに来た!ボーマンダ!!
葉月をメタメタに倒すロッグーーー!!」

グオオオ!!


どうみてもレベルは低くないし、自分の体力も立っているのが限界のレベル

「いけえーーーロッグーーーー!!」


最初に向かってきたのはドリュウズ二匹

ギリギリの状態で爪をかわしていく

が、身体はやはり限界だった

直ぐにバランスを崩して崖ギリギリまで転倒する

そしてその隙を見てボーマンダが何かを仕掛けようとしているのを見て、僕は絶望した

とても避けられない

くっ…!

硬く目を閉じて、衝撃に備える

もう終わりか…こんなとこで…

せめて…卯月は無事に…

「伏せてください!!葉月さん!!」


え…!?


突然聞こえた声は、僕の味方と思わしき発言をしていた

倒れ込む様に床に完全に伏せた僕の前に、やって来たポケモンが竜の波動でボーマンダを攻撃、ボーマンダはそれで仰け反って技を中断した

この…このポケモンは!!

「逃げます!葉月さん!」

尻尾で一発、おでこをペシンと叩かれた

身体が殆ど動かない僕は、それだけで崖から落ちた

「う、うわぁあ!」

驚きに声をあげる僕を、そのポケモンは冷静に空中で拾い上げて彼方へ飛び去った






あれ、何が起こったっけ
気を失っていたのか?

僕は、ぼんやりと記憶を探った

ああ、そうだ

崖から落ちて…

それで…


ゆっくりと目を開ける


「あっ!気が付いた!」

雫の落ちる音の中、僕以外のポケモンの声が響く

洞窟…?

起き上がる

声の主を探して、その姿に、助けて貰ったのに驚いてしまった

「さ、サザンドラ…」

そう、凶暴だとか何かいろいろ言われていたポケモン

「わわっ!驚いちゃいました!?
す、すみません!!
でも…私葉月さんを食べたりとか襲ったりとか…
戦ったりとかやっつけたりとか叩きのめしたりとか…
絶対にしないんで!」

後半全部意味一緒だろ…!

「本当です!信じてください!」

「…どの道…今は戦う元気ない…」

まだ疲労が抜けきらない身体だ

それに

「襲おうと思えばもっと前に襲えた筈だ」

「ああ、良かった
葉月さん頭良くて助かります
葉月さん今までずっと気を失ってたんですよ
ここはゲノウエア山近くの谷間にある洞窟です
私葉月さんを背負ってここまで飛んできたんです
葉月さん意外と重たくて…私もうヘロヘロで…滑空するだけで精一杯でしたよー
それでも私、出来るだけ目立たない場所を選んで…頑張って飛んできたんです
偉いでしょうー?
ここなら直ぐに発見されることもないでしょう
葉月さん大分お疲れだった様ですねー
全然起きないんで心配しましたよ
でも気が付いてくれて良かったー」

なんだこいつ

イメージと全然違うぞ

よく喋るなぁ

それにしても…

あの映像とは随分違う

映像のサザンドラはかなり怖い感じだった

でも、目の前にいるサザンドラは言葉づかいもやたら丁寧、恐ろしい感じなんて全くない

結局よく判らないままだ

助けを求めていた筈のムンナに襲われて、敵だと思っていたサザンドラに助けられる…

「いやー、本当に意識が戻って良かったですよー
それに葉月さん!
私ずっとお会いしたかったんですよ?」

「え?」

「私の声を聞いたでしょ?
人間の世界で
やだな、忘れちゃったんですかー?」

サザンドラの声を…?人間の世界で…?

まさか…まさか…!

そこから騙されていたのか…!?

あの声は…

最初に聞いたあの…ポケモンの世界を助けてって言ってた声は…
ムンナではなく、サザンドラだったのか!

「どうやら思い出していただけた様ですねー
あの時は私散々苦労して…やっと葉月さんの夢と繋がったと思ったんですが…
でも…途中で声をムンナに乗っ取られちゃうし…
終いには私がムンナに襲いかかるなんていうとんでもなく嘘なものまで見せられちゃうし!」

嘘…!

あの映像は…嘘だったんだ…!

今思い出してみれば、そういえば途中で何かが切れる様な音がした様な気がする

サザンドラの声は、そこで終わっていたのか…!

「そうです!そうなんですよ!
よく出来てるでしょう!」

「感心するとこじゃない…!」

「…本当酷い話ですよね!プンプン!
葉月さんがこちらの世界に来てからも…
ずっとムンナ達に妨害され続けて私全くお会い出来なかったし…
本当どうしようかと思ってたんですが…
でも…、ちょっとした隙をつくことでやっとお会いすることが出来ました!
良かったー!本当良かったー!」

でも、まだ判らないことがある

恐らく嘘の映像を見せたのは、よっぽど僕とサザンドラを会わせたくなかったから

僕に、サザンドラは恐ろしい敵だと思わせて接触しない様に言って、上手く自分のところに誘導したかったのだろう

でも…何故僕を倒そうとしているのか、それが判らない

「…そうですよね
判りました、お話ししましょう」

考え込む僕を見て、悟ってくれたサザンドラが話し出す

「何故私が、人間である葉月さんに助けを求めたのかを…

まず…実は私…」

グオオオォオオ…

「ぼ、ボーマンダの声だ!」

「洞窟の奥から…!」

「すみません!話は後にしましょう!
早く逃げないと!
とりあえず外に出ましょう!」

さっきまでよりは全然楽になった身体を動かし、サザンドラと共に外へ

「向こうは仲間が大勢います
発見されたら厄介です
崖の時の様に葉月さんを運んで逃げたいところですが…
葉月さん意外と重たくてさっきも私ヘロヘロだったので…
ですので申し訳ないですが…飛んで逃げるのは緊急の時だけで…!
今は歩いて行きましょう」

「…まあ、サザンドラにまで疲労されても困るし
それでいいよ」

一先ずはちゃんと歩いたり走ったり出来そうで安心

そして今一番心配なのは卯月だ

今頃、どうしているだろうか

さっきの僕みたいに疲弊しきってないか?
捕まったりしていないだろうか

僕が巻き込んだばっかりに、ごめん卯月


でも今は、考えている場合ではない
とりあえず追っ手を撒いて、サザンドラの話をゆっくり聞ける状況を作らなければ



進むべき道は崖だらけのキャニオン
岩肌が凄い

人間の世界だったら観光名所になりそうだ

下らないことを考えてしまうのは自分の心を落ち着けたいから


サザンドラが進み出して、その後ろを歩いて続く

崖を見下ろすと、川が流れていた

断崖絶壁

正しくそんな言葉がお似合いだ

僕の様子を気にしながら、サザンドラが積極的に敵を倒していく

…やっぱりいいやつ何だな…

目が合うと笑って来たサザンドラに、何とも言えない気分になる



「…少し急げますか?」

「…大丈夫」



急いでダンジョンを進んでいく

辺りも少しずつ暗くなり、夜になるのが判った

「はあ…はあ…
もう夜になるのか…」

「ずっと歩き回りましたからね
流石に疲れました…
追っ手の気配もないようですし…
ここらで野宿しますか」

僕とサザンドラは、足を止めて野宿することに

一応目立たないところをチョイスして薪を焚いて


遠く離れていても…月や星はパラダイスで見るものと同じ…

皆今頃どうしているだろう

卯月は…無事なのかな…

パラダイスまで上手く逃げ延びているといいんだけど…

そこまで行けば…仲間がいる

僕も逃げ切らないと、パラダイスまで



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