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□12,ラプラスの響(こえ)
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ロケット団を抜け、一度自宅へ帰ってきた

抜ける前から修行に何度も帰ってはいたが、漸く後ろめたさなく帰って来られたという感じだ

団員服はあのままあそこに置いてきた俺は、上Tシャツ一枚、下は団員服のままというやんちゃな学生みたいな格好だった

母親と少し会話した後、ラプラスと仲良くなる為に海へ行く準備をする

下に水着を着て、上着を羽織って
これからは隠さなくていいキーストーンを耳にぶら下げたら、何となく出ていたリザードンが嬉しそうに見えた

「よし、行くかリザードン!」

『グアウ!』

飛び出す様に家を出れば、母さんが窓から顔を出す

「ちょっと!?ご飯は!?」

「帰ったら食べるよ!
行ってきまーす!」

「全くもう」

呆れた様な返事をする母さんに元気に手を振れば、それでもどこか嬉しそうに振り返してくれた


いつもの浜辺へたどり着くと、俺はまだボールの中にいた仲間達を次々と日の元へ晒していく

そして最後に残ったボールを、海へ開放すると、中から譲られたばかりのラプラスが姿を現した

「ラプラス、これがこれからお前の仲間になるメンバーだ
よろしくな」

先ずは簡単に挨拶をしてみるも、フイとそっぽを向かれてしまう
人に慣れないと言っていたから仕方ないし、ダメで元々だったから傷付かない
仲間達も傷付いてきたポケモンだから、ラプラスの反応に困ったりもしなかった

当のラプラスは、ここが海だと気が付くと、沖の方へ泳いでいってしまう
それがしかも結構なスピードでぐんぐんいってしまうから、俺は慌てて上着を脱いだ

「お、おいラプラスー!待てよー……!」

ポケモン達が見守る中、海に飛び込む

両手でしっかり海水を掻けば、みるみる岸が遠くなっていく

岸が見えなくなってから、俺はラプラスに追い付いた

『くおーん……』

ラプラスは、更に海の彼方へ向かって、悲しそうに鳴いていた

波の音とその鳴き声が、まるで唄の様に響く
こんな時だというのに、俺はその様子をただ綺麗で、切なく思った

『くおぉーん……』

ラプラスの声に合わせて、波が揺れる
他のどんな生き物も、その綺麗な鳴き声に魅了され、邪魔をせず波に揺蕩うのみ

俺も例外ではなく、ラプラスの声に魅了され、追い掛けてきたのに声を掛けることが出来なかった

『きゃっきゃ』

『ぐあう』

空から俺を追い掛けてきたらしいゴルバットとリザードンが、俺を呼ぶ声に、現実に引き戻される

突然だったから皆心配しているだろうか

同じく引き戻されたラプラスと目が合った
直ぐに逸らされてしまったが

「心配いらないって伝えておいてくれー!
直ぐ戻るからー!」

二匹に向かって叫べば、二匹共顔を見合わせ、少し相談する様子を見せてからゴルバットだけが岸へ向かう
心配いらないとは伝えても、やはり心配なのだ

そんな意外と心配性な仲間達の為にも早く浜辺まで戻らなくては


ラプラスは未だ海の彼方を切なそうに見詰めていたが、俺はラプラスを岸へ向かう様に説得することにした

「なあ、ラプラス」

しかし当然か、ラプラスは俺の声を無視して更に沖へ泳いでいく

「ちょ、ラプラス……!」

泳いでついていくが、人間の俺はラプラス程泳げない
限界が来る前に連れ戻さなければ

『くおぉーん』

やっぱり綺麗な声で、切なそうに鳴くラプラス

俺はラプラスのことを知らなさすぎる
その時初めて痛感した
こいつの言葉が解れば……
優木のことを思い出して、俺まで暫く笑顔を無くした

『ぐあう!』

上空でリザードンが鳴いている
どんどん沖へ行ってしまう俺達に、それ以上行くなと言っている様な気がした
俺はやむを得ずラプラスの前に回り込み、進路を塞ぐ
体力的にもそろそろ限界、岸まで戻れるだろうか……

ラプラスはその場に留まって俺を睨み付けた
邪魔をするなとでも言いたげに

「わりいラプラス、でも俺そろそろ限界
溺れる」

『ぐあう!ぐあうあう!』

絶妙なタイミングで足を吊った
海の底に、身体が沈んでいく

やべえな、死ぬかも

俺の手持ち、ラプラス以外泳げるやついないし……

上に向かって上がっていく俺の吐いた息を見ながら、ぼんやりと思った

海育ちが海で足吊って死ぬっておかしな話しだよな

そんなことを呑気に考えていた俺の前に、大きな影が通る
当然の様に俺の身体を海上へ押し上げていった

その際少し海水を吸ってしまい、海を出た感覚の後、思いっきりむせた

「ゲホッゲホッ……?」

俺、何に助けられたんだ?
空を向いていた身体を、起こす
灰色でゴツゴツしたものが見えた

「あ……え?
ラプラス?」

『ぐあう!?ぐあうあう』

ラプラスの背中に乗っている状態の俺
リザードンの心配する声が上から降ってくる

「助けてくれたのか……?」

『くうん……!』

思いっきりそっぽを向かれてしまった
何でだ

あれか?勘違いするんじゃないみたいなやつか?
所謂ツンデレ?

「ありがとなラプラス!」

残念ながらそれ以上反応は得られなかった

その代わりラプラスは、俺を乗せたまま岸へ泳ぎ始める
リザードンも空から俺達についてきた
漸く浜辺が見えてくる

ポケモン達がこちらに手を振る仕草が見える

振り返すと、ラプラスがジト目で俺を見てきた

……優木、こいつ手強そうだぜ……

心の中で思ったことは誰にも届くことはなかった


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