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□9,解放する頃の
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あれから数日が経ち、俺はスパイとしての最初の行動を開始する

見張りがどうなっているか、手薄になる時間帯を怪しまれない程度に探ったところ、絶好のタイミングが判ったからだ

さて、俺が今助けようとしているのは、ロケット団にとって最強の戦力になっているミュウツーだ
最初に優木が捕まった時もミュウツーの力あってだと聞いている
だからこそ、先ずはミュウツーを解放しなければ

絶好のタイミングまで後数秒

警備の堅いミュウツーの収容部屋までの距離、およそ50m

警備に穴が開く瞬間、俺はアーボに予め頼んでおいた黒い煙り(正確には霧)を見て静かに近付いていく

「な、なんだ?火事か?」

こそこそと扉を開き、中へ入る
アーボは直ぐに逃げることになっているからきっと大丈夫

ミュウツーの収容部屋は、薄暗いところだった
ミュウツーの力を押さえ付けるスーツの様なものに包まれたままただその場に立ち尽くすミュウツーの前に、俺は立った

《……》

ミュウツーの呼吸音が部屋に響いている
敢えてそれに合わせて、俺も呼吸してみる
その息は深く、ゆっくりだった

寝ている訳ではない、ミュウツーと、スーツ越しに見つめあっている

《……何をしに来た?》

頭に直接響く声に驚く
それもそのはず、ミュウツーに直接会うのは初めてだった

「……余計な、お世話かもしれないけど」

話し出すのに少し、勇気が必要だった

ミュウツーは黙っていた
俺の言葉の続きを待っている

「助けに、来たんだ」

ミュウツーは、スーツ越しからも判る程、驚きに目を見開いた
信じられないと言った様子で、瞬きを繰り返す
そして

《フッ……ハハ》

笑った

「な、なんで笑うんだよ……!?」

極力静かに問えば、ミュウツーは未だ肩を揺らしながら、俺の問いに答えてくれた

《助け等が来るとは思ってもいなかった
しかも、ロケット団の下っぱがな》

それも、そうか
俺も理解すると、渇いた笑い声が出た
なるほど確かに、ロケット団の下っぱがロケット団に加担しているミュウツーを助けに等、おかしな話だ

「そりゃ笑うわ
俺、もう自分がロケット団じゃないとでも思ってたのかな
心は違っても、見た目はそれなのにな」

今の自分は、見た目にはただのロケット団の下っぱ
でも今からやることは、ロケット団を少しでも無力化する為の行動であり、苦しめられるポケモン達を助けることだ
そしてそれが、優木を助けることにも繋がる

《なるほど、お前の考えは何となく判った》

不思議なことに、俺は殆ど喋って等いないのにミュウツーに心を読まれた様な気持ちになった
それに嫌悪感はなく、寧ろ何だか心地よささえ感じた

《ワタシも、ここにいてはいけない様な気がしていた
人間に復讐しようと思っていたワタシが、何故人間に加担しているのか、判らなくなっていた
ここを出る手助けをしてはくれないか?》

最初からそのつもりだった俺は、黙って頷いた
近くの制御盤のスイッチを、非常停止させる
ミュウツーの力が解放され、コードをぶち破っていくのを、俺は見届けた
このまま天井を突き抜け、外へと飛び出していくだろう
俺は扉の裏に隠れられる位置に、物音を立てずに走り込み、それと同時にミュウツーが天井に大穴を開ける

《礼を言う》

短く、ミュウツーの声が聞こえた

警報が鳴り響き、大きな爆発音にも似た音に、団員達が扉から雪崩れ込んで来る
俺はその群れにこっそり紛れ込むだけ
何も知らない振りをすれば、ミュウツーが勝手に出ていったという結論で終わる

当然、サカキからは血眼になって探せと命令が下されたが、俺はそれをいいことに、また暫くバトル修業に戻った

「翼で打つ!」

ズバットの翼で打つを、カラカラが骨で受け止める

最初の頃と比べて随分威力が上がった
素早さも高くなった
驚く程速く感じることもあるくらいだ

「もう一度だ!」

同じことを繰り返す
時にはカラカラに攻撃させ、ズバットに避けさせたり
特訓は長く続いた

「骨棍棒!
鋼の翼!」

打ち込み合う二匹
その時だった
ズバットの身体が光り輝いた

進化の光りだ

自分のポケモンが進化するのは初めてだった
小さな身体が大きく成長する

修業を見ているだけだったリザードン達も、その光りに見入っていた

光りが収まると、ズバットはゴルバットになっていた

「お、おめでとう……!ゴルバット!」

『キャッキャ』

残念ながら何を言っているかは判らないが、少し驚いた様子、戸惑っている
そんな風に感じられた

俺はとにかく嬉しくて、ゴルバットに笑いかけていた




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