restart travel

□6,緑髪の痕跡を知る頃の
1ページ/2ページ



俺達は、亡くなったポケモン達を供養する町、シオンタウンにたどり着いていた
ロケット団の格好だといろいろとよくないから上着を脱ぎ、鞄の中に押し込んで、ポケモンタワーの中へ入る

お墓の一つ一つに手を合わせて回る

中には今正に手を合わせて泣いている人もいた
当然そこにも隣に立って手を合わせ、俺は頂上へ向かって歩いていく

漸くガラガラのお墓までたどり着き、手を合わせた

ごめんな、痛かったよな
悔しいよな
きっと人間なんて大嫌いになっちゃったよな

許してくれなんて、そんなことは言えるはずなかった
人間にもいいやつはいるなんて、どの面下げて言えるだろうか
ガラガラは、もうこの世にいない
許されるはずのない行いを、人間は…ロケット団の団員はしたのだ

「おや、先客か」

声に驚き、振り返ると、そこには小さなカラカラを連れた老人がいた

「君も手を合わせに来てくれたのかな?」

「…はい
ここで眠っているガラガラ、ロケット団に殺されたと聞いて…」

「そうか…
この間までとても近寄れんかったのだが…
先日ある少年のお陰でやっと入れる様になった」

「?どういうことですか?」



立ち話もなんだからということで、その人が管理しているという保護施設にお邪魔することになった
まだ精神状態があまり良くないアーボとリザードンもボールから出し、ズバットは俺の肩で羽を休めている

「ガラガラの怨念が…」

「うむ…
その怨念にカラカラを会わせてやったら、ガラガラは漸く成仏してくれたようなんじゃ
それまでは誰も近寄れん状態だったらしい」

「フジさんはその間は行ってないってことですか?」

「…ああ、いろいろと忙しくてな」

ロケット団が来た後の処理をいろいろとしていて、なかなか塔に行けなかったことを話してくれた

「ところで、ある少年って言うのは?」

「…追われているらしくてな、無闇に人に言えることではないよ」

「追われている…」

ふと浮かんだのはあの緑色の少年だった
カラカラがズバットを誘い、一緒に遊具で遊んでいる

「見たところポケモンもズバット以外はあまりなついていない様だし」

「…その通りです…
俺は過ちを犯しました
ポケモン達には許してもらえないかもしれない…
いや、許してもらえなくていい
一生をかけて償うつもりです」

フジ老人は、俺の言葉を聞いて暫く、無言でまだ湯気の出ているブラック珈琲を飲んでいた

アーボは他のポケモンと少し打ち解けたらしく、三匹程のグループで遊んでいる

「お前さんの言う過ちが何かは知らんが、人間大小あれども皆過ちの一つや二つあるものじゃないか?」

フジ老人の言葉に、俺は暫く呆然としてしまった
庇う様なことを言って貰えるなんて思ってもみなかったから

「そう…ですね…
でも俺のは、小さなことじゃないんで」

「良かったら話してみてくれんか?」

「え…?」

「勿論無理にとは言わん」

迷った
話せば俺がロケット団だということがバレてしまう
カラカラもそれを聞いて俺を殺そうとするくらい憎むかもしれない
でも、だからこそ黙っている訳にもいかない様な、そんな気がした


「…俺は…ロケット団に所属しています」

この一言で、フジ老人が息を飲むのが俺にまで伝わって来た
カラカラもこちらを凝視している
まだ、驚いている段階と言ったところか、時間が止まったみたいに空気が氷つく
時計の針の音だけが、時間の流れが正常であることを知らせていて、この冷えた空気の中でも変わらない規則的な音が逆に俺を焦らせる

「過ちというのはロケット団としてポケモン達にやってきたことその全て…
緑色の髪を持つある少年に、俺のやってきたことが間違いだと気付かされて、俺は罪を一生かけて償うと誓いました」

「緑髪の少年…か」

「俺をジュンサーさんにつき出すのは簡単です
でも俺はまだあいつに恩を返せてない
あいつは、今追われています
生きているかどうかも判らないけれど、俺は生きてるって信じてます」

再び沈黙が訪れ、俺は顔を伏せた

「…どう恩を返すつもりだ?」

「俺、まだロケット団にいるので、あいつが捕まったり見付かったりした時に逃げるのを手伝おうと思って
勿論それだけで返せるとは思ってないです
他にも出来ることは出来るだけやろうと思ってます」

『カラ、カラカラ?』

「?」

カラカラが何か俺に聞いてきているのは判った
でも、何が聞きたいのかが判らない
ズバットが困った様にため息を吐いて、フジ老人も判らないみたいで、カラカラが意志疎通出来ずにどうしようか困り出したのは表情で判った
とりあえず、俺を恨んだりはしないみたいだ

『ズバッズバッ』

「?」

施設を出ていこうとするズバット、一体どうしたのだろうか

『ズバッ』

振り返ってもう一鳴き、俺はその様子で何となくズバットが言いたいことが判った

「ついてこいって言ってるのか?」

『ズバッ』

頷いた、正解だったらしい

直ぐに戻ることを言い残し、ズバットについていく
人気のない場所を探している様なズバットに疑問を持ちながら、歩くこと数秒
人影のない路地裏にたどり着いた

「こんなところで一体…
ま、まさか俺の血を吸う為に…!?」

「ちげえよ」

即座に返って来た言葉に俺はその場でフリーズした
ズバットの身体が光輝いたかと思えば、そこに突然現れた少年がそう言ったからだ

さっきのどうでもいい冗談もその突然過ぎる出来事で忘れ去った

「な、何が、一体…」

「擬人化ってやつだ
主に意志疎通をする為にポケモンが用いる特殊能力の一つ
今回はこれがどうしても必要と判断してお前の前で擬人化することにした」

擬人化、聞いたことくらいはあった
トレーナー達の間で、都市伝説として語られているポケモンの特殊能力、ポケモンが人の姿をとること

「意志疎通の為でも信頼出来ない人間の前ではこの姿にならない
状況は飲み込めたか?」

「あ、ああ…うん」

本当は展開が突然過ぎてまだ混乱しているが、頷いていた
とりあえず、信頼出来ない人間ではないとズバットは俺のことを判断してくれたらしい
そこは素直に嬉しかった





,
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ