スケッチブック

□5,競争の果てに
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森の奥へと漸くたどり着く

凄いペースで進んで来たからか、ヌメラの苦しそうな息遣いが聞こえた

「あっ!あそこ!
広そうだよ!行ってみよう!」

「ちょ、ちょっと待ってレン…!
ヌメラがいない…!」

さっきまで居たのに

「あれ?本当だ
ヌメラがいない…
どこ行っちゃったんだろう…」

辺りを見渡してみるも、そこにはヌメラらしい影もない
だだっ広い森の小さな広場

ツーツツツ……!

そこに再びニャスパーからのテレパシー

《こちらニャスパー
聞こえる…?》

「聞こえるよ!ニャスパー!」

《今どの辺にいるの?》

「多分だけど…目的地の近くまで来れたみたいだよ」

《本当?それはおめでとう
ヤンチャム達より早く着いたんじゃないかな?》

「ほ、本当!?」

ニャスパーの言葉で、レンの目が嬉しそうに輝いた

《さっき連絡した時はまだそこまで来てないようだったから…
きっとレン達がどこかで追い抜いたのね》

「そっか!ありがと!!
やった!オレ達一番になれるかも!!
早く先に行こう!!」

「ええ!?ヌメラは!?」

私の言葉は聞かず、レンはさっさと進んでいってしまった
調子に乗ると他の誰かの言葉が聞こえなくなる、そういう子みたいだ

「…ヌメラ、大丈夫かな…?」

私は、迷いながらも結局レンに着いていった

その内、フラッグを見つけ、二つある内の一つを取った

「やっぱりヤンチャム達より早く着いたんだ!」

「でもヌメラが…」

「えっ?ヌメラ?
そっか…!
そういえばどこ行っちゃったんだろう…心配だね…」

漸く私の言葉を聞いてくれたレンが、来た道を見た
そこには当然ヌメラはいない

「おっ、何か違うところに出てきたぞ」

「何となくだけどフラッグのところまで近い気がするよ」

ヤンチャム達の声が聞こえて来た
近くまでやって来たみたい

漸く旗まで来たヤンチャム達は、私達が先に取ったのを見て驚いていた

「残念でしたー!
オレ達が一番だったね!えへへへっ!!」



結局ヌメラを見付けられないまま、私達は学校の小さなグラウンドに戻ってきた

「それで…ヌメラを見失ったって訳?」

「う、うん…」

そして私達はシキジカに説教を食らうことになる、現在進行形で

「ヌメラは…?今どこ?」

「まだダンジョンの中じゃないかと…」

「全くもう!
二匹共何やってんのよ!!」

「ごめんなさい…」

やっぱりあの時レンを追い掛けないでヌメラを探せばよかった
私も反省しなければ…

「ワタシ探してくる!!」

あっという間にシキジカがまたダンジョンに行ってしまうのを、私達は見送ってしまった

「…レンのチームが一番早くクリアした
それは素晴らしいが…
チームの仲間を置いてきてしまうのは良くないんじゃないかな」

「ごもっともです…」

「ううっ…」

「クククッ…」

端の方で見て笑いを堪えているヤンチャムが少し憎らしい

「先生思うんだ
チームの皆で助け合う
チームで互いに気遣い、同じ目的へと向かう
それはもしかしたらクリアするより大切なことなんじゃないかな?」

「ムフフフ…」

チョボマキもか

「さあ、ぼおっとしてる場合じゃないだろ?
まださ迷ってるかもしれない
早くヌメラを探してくるんだ」

「はあい…」

私達はそこで説教から解放され、再びダンジョンへ入っていった


「先生
ワタシも探しに行きます」

ニャスパーもその場を去ったところで、我慢の限界に達した二匹が大笑いを始める

「ハハハハッ!!いい気味だぜ!!」

「コラッ!笑うんじゃない!!」

「はーい」





そして学校が終わり、放課後


私とレンはまた一緒に下校していた

「結局ヌメラが無事に見付かって良かったね…
でも……ああ、失敗しちゃったな……
早くクリアすることばかり考えて全然気付かなかったよ」

まだしょんぼりテンションの私達
レンが途中で立ち止まり、私も少し遅れて立ち止まった

「ねえメイ…
メイはオレのこと鬱陶しいって思ったりする?」

「えっ?」

「ヤンチャムやチョボマキにはいつもうざいとか言われるし…
今日みたいなことは前にもたまにあったから…
他の皆からも迷惑がられている気もするんだよね…
で、メイは…どう思う?
やっぱりメイもオレのこと鬱陶しいって思う?」

結構悩んでたんだ
少し失礼なことを思いながらも、私はただ思ったことを口にする

「そんなことはないよ
今日のことは私もよくなかったしお互い様だよ
でも…思い込むといつも皆を巻き込んでそれで迷惑を掛けてしまうことも確かにあるかな…
もうちょっと回りのことも気にした方がいいのかもしれないかな…」

「ええっ!?そうなの!?
そっか…そうだよね…
オレいつも一匹で突っ走っては迷惑掛けてるもんね…」

あ…もしかして大分落ち込んでる…!?

な、涙まで目に溜めて…

「オレも判ってるんだ…
つい皆に迷惑かけちゃって…失敗して…
メイ…ごめんね…
いつも鬱陶しくて…
これからはもうちょっと気を付ける様にするよ…」

ええ…
そんなことはないって言ったのに…

どうしよう…あんなに落ち込んじゃうなんて…

気持ちを伝えるのって難しいな…


空はオレンジ色に徐々に染まり、夕方になろうとしていた


小さくてもここに存在した確かな負の感情に沸き立つ力を感じるモノの存在を、メイ達はまだ知らない




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