心結び

□8,大氷河
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「ビリジオンが友達を作らないのは理由があるの」

「理由?」

「ああ、ビリジオンにも前は友達がいたんだ
名前はケルディオ」


幻のポケモンだ
確か、聖剣士…

「ケルディオはかつて大氷河に向かい…そしてそこから消息を絶ったんだ…」

「…!
行方不明ってことか?」

ブラッキーは黙って話を続けた

「ビリジオンは心配してケルディオをずっと探した様だが…
結局は何も判らなかったらしい…
暫くするとビリジオンに手紙が届いた
ケルディオからだった
そこには、こう書かれてあったそうだ


本当は大氷河なんかには向かわなかった
単にビリジオンから離れたかっただけだった
もう友達ではない
だから忘れてほしい



…と」


「ええーーーっ!?」


驚いた声を上げたのはノコッチだ

でも、卯月もエモンガも、驚いた顔をしていた


「ビリジオンも驚いたでしょうね
そのショックは計り知れない
信じられない気持ち…
それでもまだ信じていたい気持ち…
いろんな気持ちが混じって結局、何を信じていいのか判らなくなる

それからだって言ってたわ…ビリジオンが友達を作らなくなったのは…」

「俺達がビリジオンと出会ったのはその後だ
俺達の研究のことを知ると、ビリジオンは自分の過去を打ち明け、そして自分も一緒に大氷河へ連れてって欲しいと頼んできた
ケルディオのことは今でも悩んでると思うし、大氷河に行けば何か判るかもしれないと思ったんじゃないかな
そのビリジオンが行かないと言うのは、俺は信じられない

しかも、今はあんなに明るくなったのに…」

「えっ?明るく!?」


…あれで明るくなったのか
前はどんな感じだったのだろう

「私達が初めて出会った時なんて全く感じが違ったわよ?
多分この宿場町に来てから変わったんじゃないかな…?
月乃道に入って…皆と出会って…
相手を信頼する気持ちがまた戻ってきてるんじゃないかしら」

「それなのに…
全くビリジオンのやつ…何を考えてるんだか…
とにかく俺は絶対連れて行くつもりだからな」



一先ず、僕達はブラッキー達と別れ、パラダイスの家の前に戻ってきた



「ビリジオンが友達を作らない理由にそんな訳があったなんて…」

「しかしケルディオってやつはひでえやつだな!
大氷河に行くなんて嘘までついてビリジオンと離れるなんて…
絶対許せねえよな!」

「あれ?エモンガってビリジオンのことが嫌いなんじゃなかったっけ?」

「い、いや!嫌いだけどよ!!
それとケルディオってやつが酷いのとはまた話が別だろ!?」


どうにも、引っ掛かるんだよな

ケルディオは本当に、ビリジオンと離れたかったんだろうか


「ねえ皆…
ぶ、ブラッキーの言う通りだと思う
ビリジオンはやっぱり大氷河に行くべきだと思うんだよ」

「ノコッチ…お前…」

「だ、だから!
のこ…「わーーーっ!ちょっと待て!」」

ノコッチの言葉を遮るエモンガ

「な?な?」

「でも…!」

「エモンガの言う通りだよ
誰が残ってもすっきりしないんだし
ビリジオンみたく自分の気持ちに嘘を吐いちゃいけない
そしてそれはノコッチ…君も同じだよ」


卯月の言葉に、ノコッチは目に涙を浮かべた

「そ、そうだ!くじにしないか?

皆でくじをやる
ビリジオンも一緒にな
そこで当たりを引いた者がパラダイスに残る
誰が残るにしろ煮えきらねえんだ
だったらいっそのこと運に任せた方がいいってもんじゃねえか?」

「…僕が残れば済む話じゃ…」

「葉月は行きたくないの?」

「…皆程は行きたくないと思うよ」

冒険心なんてほとんどないし

「…でも、私は葉月とも行きたいし…」

何でだ

「…他にどうしようもないし…」

「くじにしようぜ
話し合ったって変わんねえし」

エモンガはさっさと行ってしまった

くじを明日までに用意すると言って

「なんか心が晴れないけど…
仕方ないのかな…」

「…誰が残っても嫌なら仕方ないさ」



僕達はいつも通り依頼をこなすことにした


その夜…


「いよいよ明日、大氷河へ出発…かぁ

ワクワクする半面…やっぱりもやもやするなあ

ああもう、考えれば考える程ごちゃごちゃしそう…

今日のところは早く寝よう
お休み、葉月」

「…お休み」

さっさと寝てしまう卯月を、僕は少し複雑な思いで見守った


…もし、今あの夢に進展があったら、そっちに向かうべきだろう

そういうことも踏まえて、僕は本当は残るべきなんじゃないかと思う


まあ、そんなことを考えていても…


結局卯月が反対するんじゃあ、どうしようもないか


僕もさっさと寝ることにしよう



そして、大氷河へ行く日はやって来た

いつもと変わらない朝だ

「葉月、おはよ」

「…おはよ」

「いよいよかあ…
くじ引き…」

「…皆と合流しようか」

気が乗らなそうな卯月を連れて、家を出る


再び、全員で集まってくじを囲った

「残るのは私で決まったんじゃなかったの?
なんでこんなことするのよ?」

「まあまあ
物事はやっぱり公平に決めないと
いくらビリジオンが残るって言っても皆納得してないしね

という訳で…

ジャジャーーーーーン!!
これからパラダイスに残るメンバーを決めるくじ引きを始めるぜ!!
皆くじを引いてくれ」

「全くもう…」

僕達は一匹一枚ずつ、紙を引いた

「紙きれのはしっこに一つだけ赤くなっている物がある
それが当たりだ
いいか、後腐れなしだからな
当たっても文句言うんじゃないぞ

じゃ、皆確認してくれ」

紙をよく眺める

全くの白だ、赤なんてない

「ぼ、ボクだ…!
赤いのがついている!!」


ノコッチ…

「…ノコッチか…
まあ…でもくじなんだから…仕方ねえよな…
決まりだな、じゃ残るのは…」

「ちょっと待った!
やっぱり僕が残る!」

ノコッチは僕なんかよりもずっと大氷河に行きたい筈だ

ノコッチが残るくらいなら、やっぱり僕が残るべきだ

「ええ!?」

「いえ!やっぱり私が残るわ!」

「ビリジオンも…!
いや、駄目!
ビリジオンが残るぐらいなら代わりに私が!」

「駄目だ!駄目だ!駄目だ!
皆何を言い出すんだ!
やっと決まったとこなのに!
大体ここで覆しちゃくじをやった意味がねえじゃねえか!」

…なんだこれ、喧嘩になっちゃうのか?
僕のせいか…

「そんなこと関係ないわ!
とにかく私が…「ボクが残るっ!!」」

「ノコッチ…」

遂にはノコッチ自身までが…

「ボクが残るべきなんだ
そして…ビリジオン…
君は大氷河に行くべきだよ
ブラッキー達から聞いたんだ
あんな理由があるなら大氷河に行かなきゃ駄目だよ」

「……」

「それに昨日誰かが言ってたけど…
実力がない者が残るべきだっていう言葉…その通りだと思う
そして今日のくじ引き…
公平にやって決まったことなんだからボクは受け入れるよ
だから皆も納得してよ
留守番はボクに任せて!
皆気を付けて行ってきてね!」


…なんだか、申し訳ない気持ちになった

大して行きたいと思ってない様な、僕が、本当に行っていいんだろうか…

それでも、また言い出したら同じことの繰り返しになってしまうから
もう、何も言えなかった


「皆決まりで…いいよな…
ノコッチ…ごめんな…
誰かが残らなきゃいけない以上仕方ねえんだ…」

「大丈夫だよエモンガ
こっちはヌオーやビクティニもいるから寂しくないよ
大氷河、気を付けて行ってきてね
お土産も沢山持って帰って来てね」

「ああ…

決まりだ、卯月
進めてくれ」

「じゃ…じゃあ…
出発の準備をしようか…
その前に私と葉月はブラッキー達の様子を見てくるよ…
葉月、行こ…」


僕は黙って歩き出した

その足取りは重い




「葉月!卯月!
待ってたわよ!」

丘の上にやって来ると直ぐに、エーフィから声がかかった

「えっ!それじゃ…!」

期待に目を輝かせる卯月、やっぱり何だかんだ大氷河に行けることは嬉しいらしい

「ああ、俺達のエンターカードがやっと完成したんだ
後はダンジョンの入口をここに呼び込むだけだ」

「遂に出来たんだ…!
じゃあ私達も帰って冒険の準備をしよっか」

「準備が終わったら俺に話し掛けてくれ
そしたら大氷河に出発しよう」



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