心結び

□5,Vの季節と蜃気楼
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そのまま、朝になってしまった


目が冴えてとても眠れたものじゃなかった


日差しが、家の窓に射し込んで、僕はため息を一つ吐いた


今はどうしようもない
手掛かりが見えるまでは、強くなることだけを考えよう


窓からそっと外を覗く


「ふあああ…」


卯月が起きたみたいだ

「あれ…葉月?
もう起きてたんだ…」

「うん、さっきね」

今日の日差しは何だか気持ちいい

春…なのだろうか

「早起きはいいことだよね」


夜遅くから眠れていないだけなんだけどね

そっと、心の中で呟いた

「とにかくおはよ!
今日も頑張ろうね!」


「ん」

挨拶もまともに返さずに、僕は家を出た
卯月も当然それについてくる

もう依頼をこなす日々に慣れてきている
ツタージャの身体にも

グラスミキサーを覚えた、命中は高くないが威力がある技だ

卯月はエレキボールも覚えたし、いい感じでレベルが上がっているのが判る

今日も何事もなく依頼を完了

本当に順調だ

「そろそろ素材も集まったし開拓出来そうだね」

「ああ、そうだね」

使える土地が増えていくのはいいことだ

何建てようかなあ、と嬉しそうな卯月を片目に、僕は眠る準備をしていた


次の日の朝

いつも通り挨拶を交わして家から出た僕と卯月を、ノコッチが出迎えた

メンバーはいつも呼ばなければ大体集まらないから、家の前にいるということは何か用事があるのだろう

「あれ?ノコッチ
どうしたの?」

当のノコッチは何だか楽しそうに(少しだけ慌てた様子ではあったけれど…)僕達の名前を呼んだ

「卯月さん!葉月さん!
今から一緒に宿場町へ行きませんか!
丘の上から蜃気楼が見えるんです!」

「蜃気楼…?」

こんなところで見えるものなのか?
普通は砂漠とかで…確か見えない筈の場所が見える現象…じゃなかっただろうか

「蜃気楼って…遠くのものが空に浮き上がって見えるっていう…?」

「そうです
宿場町からたまに見えるそうなんですが…
今回は今までの中でも特に綺麗に見えてるって聞いたんです!
皆ももう行ってます」

「判った!勿論見たいよ!
葉月!私達も行こ!」


ノコッチ達に連れられ、宿場町の丘の上(この前僕が逃げ込んでぼーっとしてたところだ)にやって来た

そこには既に何匹かのポケモンが集まっていて、ビリジオンとエモンガもここにいた

「わあー、もう何匹か集まってるね」

「おっ、来たな」

エモンガがこっちに気付いて手を振ってくる

それに導かれる様に僕達は近くへ

「あそこだ
結構くっきり見えるぜ」


見えたのは、氷の塊の様なもの

空に不自然に浮いている

確かに、蜃気楼の様だ


「わあっ!凄いっ!!
何か大きなものが浮かんで見える!」

「真っ白な山々に見えるけど…
何だろうあれは…」

「氷…に見えるよ、僕には」

「北の大氷河よ」

やはり、氷らしい

しかし大氷河とはまた…凄いところがあったものだ

「ここより北の海辺に巨大な氷河が広がってるの
私も海沿いの山の上から眺めたことがあるけど、その雄大な光景には本当圧倒されたわ」

「凄いです!ボクも見てみたい!」

「私も!
大氷河ってどんなところなんだろ!
何かワクワクするなぁ!!」

あのビリジオンが圧倒されるとは…

どんなところだろうか
まあ、草タイプの僕には厳しそうだけど…

「あそこには氷の宝石があるとか…
幻の大結晶があるとか色々言われているけど、でも本当のところはまだ何も判ってないわ」

「…もしかして誰も行ったことがないとか?」

「ええ、そうなの
多分ね

巨大なクレバスが行く手を遮っているの
しかも不思議な土地の力がクレバスを不規則に変えるから地図も作れない
空を飛んでいこうにも凍てつく風が邪魔をして近付けないらしいわ」

「そっかぁ…
そんな場所なら今の私達の力じゃ尚更無理だね…
でも!いつか行ってみたいな!
大氷河へ!」

「へへっ、そうだな」

「私達も修行して実力をつけなくちゃ!
今日も頑張って依頼をこなそう!」


蜃気楼で浮かび上がる大氷河を背に、皆の楽しそうな気合いの声が響いた

しかし…氷弱点が三匹もいるんですがそれは…


まあ…いいか

あまり気にしないことにして、僕達はまた掲示板の前に行く


今日も依頼をこなそう

その内きっと判ってくる、僕がこの世界に連れてこられたその、明確な理由と、するべきことが

それまでに、力を付けるんだ



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