心結び

□8,大氷河
1ページ/3ページ



その日の夜


宿場町の丘の上で、ノコッチは空を見ていた

丸くて大きな月が浮かんでいて、無数の星達が瞬いている


「隣…いいかしら?」


そこにやって来たのはビリジオン

憧れのポケモンの突然の出現に、ノコッチは当然驚き、慌てた

「あっ…び、ビリジオン!!
あわわわわわっ!!」

「驚かせてごめんなさい
一緒しちゃお邪魔?」

「そっ…そー…そーんなこと!
はあはあ…」

慌て過ぎておかしなことになってるノコッチの隣に、気にする様子もなくビリジオンは腰掛けた

「どうしたの?
夜こんなところに一匹で佇んだりして」

「ま、前にここから見た蜃気楼を思い出したくて…
大氷河の蜃気楼を…
だから…ここに来ればまた大氷河の光景を思い出せるかなって思って…」

「…行ってみたいのね
大氷河に」

「うん、ボク一流の冒険家になりたいんだ
そして世界中の困っているポケモンを助けたい!
苦しんでいるポケモンに勇気や希望を与えたい!
それがボクの夢なんだ

あっ…ああっ…
へ…へ、変ですか!?」

照れくさそうに、ノコッチは言った

ビリジオンは何でもない様に首を横に振る

「ううん、変じゃないわ
もう笑ったりはしない

あの時は…ごめんね」

「は…はい…

…ぽっ…」




そんなところへ、更に丘の上に現れたポケモンがいた

エモンガだった

ビリジオンとノコッチの姿を見て思わず木陰に隠れる

「…(何で隠れてんだよオレ…?
意味不明にドキドキしてるし…!

しかし…あんなところで何をやってるんだろう…?)」


こっそり覗き見るエモンガのことは知らず、ノコッチとビリジオンの話は続く


「それで…ボクにはそんな夢があるんだけど…理想と現実の差は激しくて…
何をやっても駄目だったんだ…

でも月乃道に入って…皆と出会って…
今はそれが少しずつ変わってる気がするんだ

いや…相変わらず駄目なところもあるんだけど…
それでも…
自信って程じゃないんだけど…
なんか明るい気持ちで頑張れる様になってきたんだ
そう思ってたところに今日大氷河に行く話が出てきて…

ねえビリジオン
あの時ボク思ったんだ
ボク絶対大氷河に行きたいっ!!

…って

きっといろんな経験が出来そうな気がする
自分の殻を破れそうな気がする
だからボク…大氷河には絶対行きたいって思ってるんだ!」

「そっか
ノコッチは今凄く成長しているのかもしれないわね
新しいものをどんどん吸収している時なのかも
大氷河で何か見付かるといいわね
私も応援するわ」

「ほ、本当!?」

「ええ、頑張ってね!」

「よ、よおおおうし!!
ボク頑張るっ!!
ぐぁんばるぞぉぉぉーーーーうっ!!

ぽっ…」


楽しそうな二匹の様子に、エモンガはただ見ていることしか出来なかった

「…(完全に出ていくタイミングを逃しちゃったな…

でも…最近ノコッチが明るいなと思ってたけど…なるほどな…
少しずつ自信がついてきてるんだな
そういうことだったら
勿論、オレも応援するぜ!
頑張って一緒に大氷河を冒険しような!ノコッチ!!)」




そして、朝…


「葉月!おはよ!」

「うん…おはよ」

眠い目を擦りながら、挨拶を返す


いつもの様に家を出ると、待っていた様子のヌオーがぬぼーっとした感じでこちらを見た

「あれ?ヌオー?
どうしたの?」

「あ…あ…あ……っ!」

よく見たら慌てている様だ
ぬぼーっとした感じなのは気のせいか

「ん?どうしたの?」

「じ、実は重要なことに気が付いただぬ
この前は皆で、皆で大氷河に行こう(だぬ)!!
おおーーーー(だぬ)っ!!!

って感じで盛り上がったと思うだぬが…
よくよく後で考えてみたら…
とても大切なことを忘れていたのに気が付いたんだぬ!!
なので今からその話をしたいだぬ!!」


「よく判んないけど…判った
皆を集めてくるよ」


ヌオーの口振りから察するに…恐らく、全員では行けないんだろうな


とにかく、全員を集めてヌオーから話を聞くことに



「ええーっ!?
留守番が必要だってー!?」


…まあ、予想通りだった

「そうなんだぬ…
大氷河へは長旅になると思うだぬから…
ここには何日も帰ってこれないと思うだぬ

実は"わくわく冒険協会の掟"というのがあってだぬ…
それによると長旅の場合はチームは留守にしてはいけないという…
鉄の掟があるのを思い出したんだぬ…」

「な…なんなの!?それって!?」

「多分長い間チームと連絡が取れないのは困るからだと思うだぬ
昔なんか揉め事というか、問題があって…
それでこんなルールになったというのを聞いたことがあるだぬ
掟が守れない場合はチームバッジを剥奪…
チームは解散!という厳しいものだぬ…
なので月乃道の内…中心メンバーの一匹はここに残って欲しいだぬよ…
折角盛り上がったのに残念だぬが…」


掟か…仕方ないな

「そんなぁ…
私は皆で行きたかったのに…
でもチームが解散したら元も子もないし…
だったら仕方ないのかなぁ…」

「僕が残ってもいいけど」

「駄目だよ、葉月はリーダーなんだから」

「ええ」

いつの間にリーダーになった…!?

「一匹で留守番になって寂しくなったらボクのところにおいで
その時はこの…

Vルーレット!!

を回せば気が紛れるよ」

「相変わらずうざい…
違った、凄いなお前

それはともかく、誰がここに残るのかって話だがよ
やっぱりこの中で実力が一番ない者が残るべきじゃねえかな?」


そう言ってきたのはズルッグ

その言葉で、落ち込み始めるノコッチ

確かに、ノコッチはメンバーで一番レベルも低い

「まあそうだろうな…
大氷河は未踏の地だ
何が起こるか判らん
それだけに危険も多いと思うしな」

ドテッコツもズルッグに賛成の様だ

危険か…まあそれを考えたら僕も賛成かな…
一緒に行くメンバーが足を引っ張られて危険な目に合うことも考えられるし…


「実力とか関係ないよ
冒険家なら誰もが行きたいと思う場所なんだよ
それなのに…
誰かを残して行かなきゃいけないなんて…悲しいよ…」

「こればかりは仕方ないだぬ…」

「あ…あの…ぼ…ボクが…」

「や…やめろノコッチ…!」

震えながら残ろうとするノコッチを、エモンガが止める

「私が残るわ」

「えっ!!」

そんな中で、残ると言い出したのはビリジオンだった

実力で言うと、ビリジオンは一番強い


「ええっ!?」

「ビリジオン!」

「私、大氷河に興味がないこともないけど…
でも実は寒がりだし…危険なところも苦手なの
だから私がパラダイスに残るわ」

…寒がりはともかく…後者は絶対嘘だろうに…

僕も草タイプだから寒いのは苦手なんだけどな…

「じゃあね」

ビリジオンはそれだけ言って、用は済んだとばかりに去っていった

「や…やったぁ!
ビリジオンちゃんが残るっ!
オレ実は密かに…
ビリジオンちゃんが行っちまったらどうしようって思ってたんだけど…
でも!!寂しい思いをしなくて済むんだ!!」

全く…またお祭りの様に騒いで…

煩いな…


「…どうしちゃったんだろ…
ビリジオンってクールだし、感情を表に出さないから判りにくいけど
でも大氷河に関しては…一番行きたそうな感じがしたのに…」

「葉月…卯月…
なんか煮えきらねえな
こんなことになっちまうなんてよ…」

エモンガの言葉に、僕達はビリジオンが去っていった方からエモンガへと視線を移した

「うん…どうしよう…」

「ビリジオンが残るかどうかは別として…
とにかく皆で大氷河に行けなくなったことには変わらねえ
そのことだけでもブラッキー達には伝えた方がいいんじゃねえか?」

「そうだね」

「葉月、行こうぜ」


丘の上にやって来た

「あっ!葉月!」

こちらに気付いたエーフィに、名前を呼ばれる

「皆いいところに来た
もうじき研究が終わりそうなんだ
明日には大氷河へ出発出来そうだぞ」

「えっ?本当!?」

途端に嬉しそうにする卯月

「うん
楽しみにしててね
明日皆で大冒険よ!!」

皆で、その言葉に、また卯月の耳は垂れ下がった

そして、言いにくそうに話し出す

「えーと…ブラッキー、エーフィ…
そのことなんだけど…」



「ええっ!?皆で大氷河には行けないだって!?」

「しかもビリジオンが残るって言ってるの!?」

「うん…そうなの…」

ブラッキー達は、少しお互いを見合った後、自分達の意見を口にした

「誰かが留守番しなきゃいけないのは判るとして
ビリジオンが残るのは反対だ」

「えっ?どうして?」


「皆は…ビリジオンが友達を作りたがらないことは知ってるの?」

「…知ってるよ」

何かを話し出すエーフィとブラッキーに、僕達は耳を傾けた




,
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ