烏野短編
□温度
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『ただいまー』
玄関を開けるとシチューのいい香りがしてきた。
あたしはすぐリビングへ向かう。
そこには家族が晩御飯を食べていた。
「お帰り、寒かったでしょ?いま準備するわね。」
お母さんが席を立ってキッチンに向かったのを確認するとお父さん、お兄ちゃんがおかえりを言ってくれた。
ただいまと返すとお母さんの方へ向かった。
『お母さん』
お母さんはシチューが入っているらしい鍋を温めていた。
『お母さん、お願いがあるんだけど。』
「え、どうしたの?彼氏出来ちゃった!?」
『どーしてそーなるのよ』
実は家族には彼氏が出来た事は伝えていない、と言うか伝えない。
何故かって、お母さんに伝えた事は必ずお父さんに伝わるから。めんどくさいので言わない。
『あのさ、友達と出かけたいんだけど今日買い物で使っちゃったの、それでいくらか頂きたいんだけど…』
お母さんは鍋を混ぜる手を止めてあたしを見る
「………」
見る。何も言わず、ひたすらあたしの目を。何かを見通したようにお母さんはニヤけてははぁん…
怪し笑顔で首肯いた。
『な、なに…』
「出来たわね…?」
『な、なんのことかなぁ…?』
「とぼけても無駄よ?女のカンよカン」
ふふっと笑ってシチューをまたかき混ぜ始める。
『お母さんっ』
「分かったわ」
お母さんのその言葉にあたしは目を輝かせた。ありがとう!!そう言ってリビングに戻りお父さんとお兄ちゃんで他愛もない話をしてお母さんが晩御飯を持ってきてくれた。
お母さんは隣の席に座って
「ねぇ!お父さん、お兄ちゃん!名無しさんったら、」
『っゴホッ……お母さん!?』
ちょっとストップ!!お母さん今何いおうとした!?あたしは慌ててお母さんの動く口を止めた。
「名無しさん?どうした?」
お父さんが怪しむ前に適当に誤魔化した。お母さんには言わないでと言うのを目でしっかり教えた。コクコクと頷くお母さんに安心して食事に戻る。
それからも家族で他愛もない話をして食事を終わらせた。
『ごちそうさま、じゃああたし、お風呂先使うね』
席を立って食器をキッチンに持っていく。
その後お風呂を済ませ髪の毛をタオルで拭きながら自分の部屋に入った。
ギシッと音を立ててベッドに腰をおろす。
あ、そう言えば影山メールするって言ってたな…今何時?
時計を見ると11時を過ぎていた。
あ、荷物下に置きっぱなし……
ダッシュでリビングに荷物を取りに戻った。
テレビを見ていたお兄ちゃんがあたしに気づいて教えてくれた
「お、名無しさん携帯鳴ってたぞ
何回か鳴ってた」
『え、マジカ…』
きっと影山からだろう。
何回か来てたのか…
きっと家族で他愛もない話をしてる時とかお風呂入ってた時かな…
早く見たい…けど部屋まで我慢。
荷物を持って急いで部屋へ戻った。
扉を閉めて机に荷物を置く。
カバンの中から携帯を取り出し画面を開く。
『マジか…』
メール5件
電話1件
入っていた
相手は全て彼氏の影山だった。
彼からのこんなにの連絡は初めてだった。
メールをひとつずつ開いていく。
《今部活終わった、今日は明日の準備があるから早かった》19時12分
《まだ帰ってないのか?》20時
《おい、何かあったのか?》21時30分
《お前何してんだよ、今何処に居る》22時17分
《いつもすぐ返信来るくせに何やってんだよっ!!》22時53分
着信 23時5分
あたしはもう死んでもいいかもしれない。影山は心配している。いつもメールするときは必ず1分以内に返事を返していた私は携帯を放置して短い時間今日に限って呑気に過ごしてた。
幸せすぎるあたしって罪〜…
って思ってる場合じゃない、電話してまで心配してるんだから急いで返信しないと!今何時!?
時計は23時16分を指している
急いで指を動かしていると携帯が震えた。
画面は飛雄と書かれていた。
『影山っ!!!』
急いで電話に出た。ワンコールもない秒差で出た。
[[名無しさん!?お前…]]
『影や…』
[[バカ野郎っ!!!!今どこにいる!!!!]]
『い、家…』
[[家!!?家に居るんだな!!?]]
す、すごい荒れてる…
声も、少し震えて…
息切らして、怒鳴って。
『う、うん!居るよ、家に』
[[…はっ……くそっ]]
はぁはぁと呼吸を乱しているのが電話越しに分かる。
『影山…?』
[[何で、返信…しなかった]]
『ごめん、気付かなくて、お風呂にも入ってて……』
[[風呂!?……ったく]]
荒れた声は段々落ちついていき、普段の影山に戻ったように思えた。
『ごめんね、心配させて』
[[全くだバカ野郎!!]]
『ごめ…』
彼は本当に心配してたんだ。
息切らしてって事は外にあたしを探しに出てたに違いない
[[もういい、]]
『影山外に居るんでしょ?風邪引くよ』
[[…バーカ、俺は風邪なんかひかねーよ]]
『無理しちゃダメだよ…いや、そもそもあたしがそらうさせたんだけど…』
[[明日!!!!]]
『え、うん』
[[…その……た、楽しみだな。]]
『え!?』
[[じゃあ切るぞ]]
『え、ちょ!!影やっ』
プツッーーープーップーッ……………
………何それ……………。
影山可愛いすぎるうぅぅっ!!!!
もうダメ呼吸困難で死んでしまうっ!!
もう影山大好きっ!!愛してるっ!!!!
あたしはしばらくベッドで横になり枕で口を抑え発狂し続けていた。