ゴースト
□第一章
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その日の1時間目はロングホームルームだった。
本鈴と同時に生徒がいそいそと席に着き始める。
いつもならこの時間で進路について考えさせられるのだが、
今日はそんな様子ではないことが、担任が教室に入った瞬間に察せられた。
花瓶にさした蓮の花を教卓に置き、あからさまに深刻な顔つきになる担任を見て、自然と生徒は口を閉ざした。
担任が数秒目を閉じたあと、ゆっくりと話し始めた。
「朝のホームルームでは、みんなが騒いでしまわないようにと思い言いませんでしたが……」
花瓶を手に持って、窓側と窓側から二番目の席の列の間を担任が歩く。
いつの間にか夏目の隣まで来た担任は、あろうことか美園の机にその花瓶をそっと置いた。
次の瞬間、担任は更に信じられないことを口にした。
「昨日、美園凛さんは亡くなりました」
教室中が凍りついたようだった。
「遺体は校庭で発見され、すぐに病院へ運ばれましたが、手遅れだったようです」
皆が目を見開き、開いた口を手で塞ぐ者もいた。
「屋上から落ちたのだと…」
「そんなの信じられないよ!凛が死ぬはずない!先生冗談はやめて!!」
美園と仲の良かった女子生徒の一人が必死に叫んだ。
「本当に残念ですが、これは冗談ではありません」
「うそだ……」
とうとう泣き崩れ、それに続いて何人かの女子生徒の泣き声が教室に響いた。
「美園さんは友達思いの本当に優しい生徒でした。それは皆さんもよく知っているでしょう。この場で悲しくない人などいないと思います。思い出すことたくさんあるのではないでしょうか」
担任は教卓に戻ると生徒の方へゆっくり向き直る。
「皆さん、目を閉じてください」
その場で一分間の黙祷が行われた。
それは、今までで一番長い一分間だった。
夏目は目を閉じても、何も考えられなかった。
経験したことのない喪失感に襲われ、小刻みに震えながら、周りに気付かれないようひっそりと泣いていた。
まだ、信じられない。
でも涙は静かに流れていく。
柔らかく、頬を伝っていく。
そしてその日の夜、夏目はベッドに横たわり、ぼーっと天井を眺める。
受け止められない、受け止めたくない現実。
そして、後悔。
今までにないほど、号泣した夜だった。
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