ゴースト
□第一章
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ミーンミーン
近くの木で鳴く蝉の大合唱を背に、夏目潤は夕陽に染まる校舎を振り返った。
誰かに呼ばれた気がしたのだが、気のせいだと気付くと少し後味の悪い気分になる。
「おーい夏目ー!何してんだよー!」
「わりぃ、今行く!」
友人にせかされ、校舎前の坂道を駆け降りる。
今年から受験生となった夏目は、高校生活最後の夏にどこか寂しさを感じていた。
あと二週間で夏休みだというのに、周りは受験モードで誰とも遊ぶ約束ができない。
もちろん自分も受験があるのだが、特に行きたい大学があるわけでもなく、なんとなく受験生である実感が持てないでいた。
どうでもいいやと投げ出してしまうのは簡単だが、大人たちはそれを黙って見過ごさない。
それが自分の為にもならないことだと分かっている分、余計に陰鬱になってしまうのだ。
そんな夏目はこの頃、自分の高校生活がこのままあっという間に終わってしまうことにどうも納得できず、
自分をそんな考えに至らしめるものがなんたるかをもっぱら模索中であった。
一つ考えられるのは、恋愛。
もともとそういうものには疎い性格なのだが、高校に入ってから周りはカップルだらけなのに対し、
彼女など一度もできたことのない自分に疑問を抱いていた。
好きな人は、いる。
同じクラスの美園凛。
彼女はいわゆる清楚系女子で、良くも悪くもあまり目立つことがないのだが、
その奥ゆかしさに夏目は密かに惹かれていた。
二人は二年間クラスが同じとは言え、一度も話したことがなかった。
夏目もあまり目立つような性格でもなく、お互いに同性の友達としか話す機会がないためである。
にも関わらず、夏目は一目見た時から美園に心底惚れていたのだ。
つまり夏目は自分の人知れぬ恋がこのまま高校生活と共に終わってしまうことを恐れていたのであった。
しかし、そう気付いたのには少し遅かったのかもしれない……。
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