*Short DreamT*

□【跡部】DEEP NIGHT
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 生まれたままの姿で、郁は跡部の上に覆い被さってその身体を舐めていく。ベッドの上に膝をついて腰を高く掲げたまま、跡部の首筋に顔を埋めて、懸命に舌を伸ばして彼の素肌を愛してゆく。

 よほど興奮しているのか、ときおり郁の腰が甘く揺れる。その様は発情したネコ科の動物のようにいやらしい。そんな彼女の後頭部を、跡部はねぎらうように優しくなでる。

 恥ずかしがり屋の恋人の大胆な奉仕に、跡部の下肢はさらに固く充血していく。今すぐにでも押し倒して中に入れたい。そんな衝動をこらえながら、跡部は懸命に自分に尽くす郁を見上げる。

 彼の服を脱がせながら、彼女は跡部の美しい裸体に夢中で唇を寄せていた。首筋から鎖骨、そして次は胸の先、それから鍛錬に割れた腹筋に口づけて。興奮に呼吸を乱しながら、郁は彼の下方へと降りていく。

 ようやく、その場所に辿り着いた。跡部の視線を受けながら、ぎごちない手つきで、郁はボトムスの固いボタンをなんとか外す。恥じらいと期待に震える指先で、そっとファスナーを下ろしていく。

「……っ」

 怯んだように郁は息を呑む。跡部のその場所は下着越しでもわかるくらいに膨らんでいた。ほんの少しの躊躇いのあと。郁はおそるおそる、跡部の下着の中から彼自身を取り出した。

 固く充血し、たちあがったそれが、彼女の眼前に晒される。何度も見ているはずなのに、こんなにも近くで目にすることはあまりなかったからだろうか。郁は不思議な感覚に囚われた。剥き出しになった彼自身から、どうしても目が離せない。自分の下肢からまた蜜がにじんで、その場所がさらに熱くなる。

「……どうしたんだよ?」

 艶やかな声で煽られる。その瞬間、彼女の中の何かが崩れた。たまらなくなった郁は、跡部に促される前に、彼自身をくわえてしまった。



 独特の味が口内に広がる。けれど今はそれすらも愛しく感じてしまう。小さな口を懸命に開いて、郁は跡部のものを喉の奥までくわえ込んでいく。

「……っ、ん」

 口の中がいっぱいになって、息が苦しくなる。けれど郁は、離したいとは思わなかった。愛しい彼の分身をずっと口内に含んでいたい。もっと良くなってもらいたい。郁は瞳を潤ませながら、跡部自身に懸命に尽くした。教わったことを忠実に実践し、充血しきった彼を愛する。

 郁の奉仕を受けながら、跡部はゆっくりと上体を起こした。自分から男のものを口にくわえて、恍惚に浸っている様子の彼女の、綺麗な髪を優しく梳いてやる。跡部に可愛がられながら、郁は口淫に溺れてゆく。口の中で舌を遣って器用に裏筋を舐め上げながら、淫らな奉仕の興奮に、自分自身を濡らしていった。

「……ッ ……あ」

 吸引の合間に郁は熱を帯びた息を漏らす。そしてついに、彼女の腰が揺れ始めた。跡部は嬉しそうに目を細める。充血した自分のものをくわえながら、幸せそうに腰を揺らす恋人の姿に、支配欲と征服欲が満たされる。

 彼女のサラサラとした髪をひと束手にとって、愛おしげに口づけた。うっとりと口淫に耽る郁の姿を鑑賞しながら、跡部はすぐそばのサイドテーブルに手を伸ばした。置いておいたそれを開封し、自分自身に装着した。彼女を身体の上に乗せて促す。

「ほら、自分で入れてみろよ」

 もう一度上体をベッドに倒して、嗜虐な笑みを浮かべながら、跡部は郁を見上げて笑う。口元を指先で拭って、郁は小さく頷いた。跡部のものにそっと手を添える。両膝をベッドについて、彼自身の真上に跨がった。先ほどからずっと疼いて仕方がなかった入り口を、そそり立つ先端に宛がう。そのまま、郁は腰を落としてゆく。

「あ……ッ、あ……」

 淫猥な音をたてながら、郁の可憐な裂け目の中に、跡部のものが呑み込まれていく。切なげな喘ぎを漏らしながら、真っ白な喉を反らす愛しい郁の姿に、跡部は呼吸を荒くした。

 昼間の彼女とは全く違う、真夜中だけの姿に興奮する。このギャップがあるからこそ、やみつきになってしまうのだ。あの無垢で素直な身体をもっと感じさせてやりたい。情欲に囚われて、甘く乱れる姿を見たい。

 たちあがった跡部自身を身体の奥まで呑み込むと、郁は熱っぽい息を吐いた。

「ぜんぶ、入っちゃった……」

 うわごとのようにつぶやいて、幸せそうな笑みを浮かべた。そして、わずかに身体を仰け反らせる。彼女の内側が、跡部の形ぴったりに馴染んでいく。

 吸いついて離さないといった郁自身からの刺激に、跡部もまた快感に、熱を帯びた息を漏らした。柔らかく温かな、潤んだ感触が心地よい。郁の身体が充分に馴染むのを待ってから、跡部は彼女に囁きかけた。

「……動くぜ」

 小さな頷きを返される。ようやく出されたお許しに、跡部はまた身体を起こす。彼女を抱きしめてベッドに倒した。上質なベッドが、二人の体重を静かに受け止める。

「……腰上げろよ」

 彼に言われるがまま、郁は限界まで腰を浮かせる。白く細い足を、彼の腰に絡みつかせる。跡部はさらに彼女の奥まで、自分自身を沈めていく。

「……あ ……ッ」

 郁はうっとりと喘いだ。その瞳は既に焦点を結んでいない。身体の内側が目一杯に満たされる感覚に生理的な涙をこぼして、彼女は目を閉じた。……跡部の緩やかな抜き差しが始まる。ぞくぞくとした快感が彼女の中をせり上がっていく。

「……んっ」

 うっとりとした声を漏らして、郁は跡部にしがみついた。首の後ろに手を回してすがるように抱きつく。ゆったりと何度も揺すられて、次第に彼女の意識は心地よさに溶けていく。

 無意識に、郁は跡部をさらに求めた。彼の鍛えた身体に巻き付けている自分の手足に、よりいっそう力を込める。もっと彼とひとつになりたい。そんな彼女の仕草に、跡部は愛おしげに目を細める。



 次第にペースが速まっていく。熱く潤った内側を思い切り擦り上げられるたびに、郁の身体を痺れにも似た快感が駆け抜ける。

「……あッ ……ん」

 薄く開かれた唇からは甘く掠れた声が漏れ、あまりの感覚の昂ぶりに彼女の全身が熱を帯びる。身体の全てが跡部に煽られていく。あまりの良さに、郁はうっとりと息を吐く。このままずっとこうしていたい。肌を重ねる幸福感に満たされながら、彼女は高みに昇っていく。そしてついに、郁は浮遊感にも似た何かに囚われた。

「あ……ッ」

 導かれる直前の、ふわふわとした特有の気持ちよさ。津波のような感覚が押し寄せて、全身が瞬間的にこわばる。郁がそれ迎えようとした、そのとき。無情にも、彼女の中から跡部自身が引き抜かれた。

「え……?」

 直前でおあずけをされたもどかしさに、郁は泣きそうな顔をする。しかし何かの言葉を口にする間もなく、彼女はすぐに跡部にうつぶせにされた。腰をだけを高く持ち上げられて、強引に膝をつかされて、再び奥まで差し入れられた。

「あッ……」

 たっぷりと潤んだその場所は、たちあがった彼自身をあっさりと呑み込んだ。じんわりとした心地よさが戻ってくる。



 今度は後背から愛される。跡部の突き上げを受けながら、郁はそれに応えるように、ひたすら甘い声を上げる。シーツに顔を押しつけて、悦楽の波に溺れながらも、郁は不意に今の自分の姿を想像した。一糸纏わぬ姿でリネンに上体を押しつけて、腰だけを高く掲げて跡部を受け入れている、はしたない自分の姿だ。

 動物の交尾のような姿勢に、郁は羞恥に襲われる。けれど同時に被虐の快感にも襲われて。たまらない気持ちになった彼女は、思わずつぶやいていた。

「……もぉ ……やだ」

「あん? 何がイヤなんだよ」

「……だって、こんなのはずかしい」

 あさましい熱にうかされながら、郁は大粒の涙をこぼす。しかし、本能からもたらされる快楽には抗えない。無防備な彼女の身体は、跡部の激しい愛撫によって、これ以上ないほどの反応を見せていた。

 抜き差しのたびに、繋がり合っているその場所からは水のような蜜が飛び散り、真っ白なシーツに小さな染みを作っている。こんなになるまで感じておいて、今さら恥ずかしがる郁に、跡部は喉を鳴らして笑った。抜き差しを繰り返しながら、羞恥を煽るように言ってやる。

「こんだけ乱れといて、よく言うぜ」

「いじわる……っ」

 そんなやりとりを重ねながら、跡部は郁の腰を掴んで、何度も彼女を突き上げる。彼女の被虐心を刺激して、性感を感じさせてやりながら、肉付きのよいヒップと細いウエストが織りなすしなやかな曲線美を、視線だけで愛でていく。

 この体位でなければ楽しめない素晴らしい眺望だ。やがて跡部の青い瞳に、彼女の一番恥ずかしい場所が映った。ほのかな明かりの中で跡部のものを咥えながら、ヒクヒクと震えているその場所はとてもいやらしくて可愛らしい。

 しかし郁は、自分のそんなところが見られているとは思わない。早く達してしまいたいという思いに囚われて、跡部の眼前に自分の全てをさらけ出して、切なげな声で喘いでいた。

 郁の内壁が、さらなる悦楽を求めるように跡部自身を締めつける。そんな彼女に応じるように、跡部は抜き差しを速めていく。ふたりの興奮が高まって、いよいよ限界が近くなる。郁の喘ぎがひときわ高くなり、白い背中が反り返る。彼女がそれを迎える予兆に、跡部の性感も昂ぶっていく。

「もぉ、だめ……ッ」

 ひときわ愛らしい郁の悲鳴に、ぞくりとした快感が跡部の背筋を駆け抜ける。ほぼ同時に締め上げられる。激しい収縮に促され、跡部は真っ白な熱を彼女の内側で吐き出した。

「……っ、くッ」

 たまらない心地よさに我慢しきれず、跡部は眉根を強く寄せ、射出の快感に呻いていた。自分自身のの脈動が収まることすら待てず、跡部は呼吸を荒くしたまま、郁の身体を引っ張って、強引に自分の方を向かせた。そのままの勢いで口づける。荒々しい彼の口づけに、しかし郁は懸命に応えた。



***



 全てを終えて、身支度を終えた跡部はバルコニーに出た。ライトアップされた美しい庭園を見おろしてから、ふと空を見上げた。夏の終わりの、美しい東京の夜空。なぜか郷愁を覚える。さきほどからずっと聞こえてくる、虫の音のせいだろうか。

「――いつまで、こっちにいるんですか?」

 いつの間にか、そばまで来ていた郁に尋ねられた。自分が留学先に戻る日取り。

「……来週だ」

「そうなんですね」

 そうとだけ答えて、郁は軽く微笑む。何でもないふりをしているけれど、やはりどこか寂しそうだ。

「そんな顔するなよ。またすぐに会える」

 そう言って、跡部は彼女を引き寄せた。細い身体を強く抱きしめる。彼の腕の中で、郁はこくりと頷いた。夜風の中に、微かなすすり泣きの声が混じる。ふたりの夏が更けていく。
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