*Short DreamT*

□【忍足/一族】君とまたテニスを
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◆番外編



「かっ返してくださいよ、侑士先輩!」

「アカンで。つか何でお前ケンヤとあんな仲エエねん」

 その日の夜。忍足は郁の携帯を取り上げて、メールの受信箱をチェックしていた。いつの間にか自分に隠れてメールしあう仲になっていた二人に、やきもちを妬いていたのだ。

「つか何やねんこの絵文字は。ヒヨコに星とかありえへんわ、気色悪い」

 郁に対してはメガネの絵文字を愛用している自分を棚に上げ、忍足はイトコをキモイ扱いする。

「も〜! 見ないで下さいよっ!」

 郁はそんな抗議をしながらも、先ほどから懸命に手を伸ばして、忍足から携帯を奪い返そうとしているのだが。小柄でどんくさい彼女が、あの忍足から携帯を取り返すことなどできるわけもなく。

 むしろさんざんからかわれ、携帯というねこじゃらしにじゃれつく、ネコのような状況に陥っている。

「何や、見られたら困るようなメールがあるん?」

「ありませんよっ!」

「ならエエやろ」

「よ、よくないですっ!」

 お決まりのやりとりをしながらも、忍足は郁をからかいながら、さりげなくベッドの近くに移動していく。

「とにかく返して…… きゃっ!」

 急に身体をひっぱられ、郁は忍足ともつれるようにベッドに倒れ込んだ。ベッドがきしみ、カシャンと音がして、郁の携帯が床に転がる。

「せ、センパイ……」

 突然の展開に顔を赤くしながらも、郁は落とした携帯を気にするような素振りをする。

「そんな気にせんでも、壊れたら新しいの買うたるわ。ま、あれくらい平気やと思うけど」

 忍足はにこりと微笑むと、ベッドの上の郁に覆い被さる。

「昼間はお前のワガママに付き合うたんやから、夜は俺のワガママきいて?」

「……ッ!」

 一応お願いの形は取っているけれど、実際は命令だ。忍足のその言葉に、郁はさらに顔を赤くし、瞳を潤ませる。

 ベッドの上の忍足は、全然優しくないどころか、とてつもなくイジワルなのだ。その反応に機嫌をよくした忍足は、彼女の耳元に唇を寄せてそっと囁く。

「郁、今夜は……」

 しかしその時。けたたましくインターホンが鳴り、部屋のドアが乱暴に叩かれた。

「ユーシ! 俺やで、開けぇや! 白石がな、全学のテニス部にも来てくれて……」

「おるんやろ? 忍足くん。居留守使うても無駄やで〜」

 突然の招いてない客の来訪に、忍足は思い切り脱力する。ちなみに全学のテニス部とは、その大学の学生なら誰でも入れるテニス部のことだ。

 余談だが、謙也は医学部と全学のテニス部に、そしてもう一人の客人は、薬学部と全学のテニス部に所属しているらしいのだが……。

(……俺のエクスタシーが)

 客の口癖に引っかけた、うまくない下ネタは心の中に留めて、仕方なく忍足は、下宿マンションの扉を開けたのだった……。
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