*Short DreamT*
□【跡部】ROSE THE ONE
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ぜいぜいと肩で息をしながら、郁は跡部を睨みつける。
「……せんぱいのバカ!」
しかし、跡部は平然としている。裸の恋人に涙目でそんなことをされても、少しも怖くはないのだ。
「何言ってんだ」
泣きながらイッてたくせに、という続きはあえて口にせず、跡部は楽しそうに口の端を上げた。彼女の瞳をのぞきこむようにして、にやりと笑う。
「かわいかったぜ」
「……!」
動揺し、顔を赤くした彼女を満足げに見下ろしながら、跡部は何かのついでのような気軽さで、その言葉を口にした。
「――そういえば、まだちゃんとキスしてなかったな」
「え?」
言うが早いか、唇を塞ぐ。
「……んっ!」
半ば無理やり舌を割り入れて、達したばかりの彼女にさらなる愛撫を加えていく。強引な跡部の口づけに、しかし、感じやすくなってしまっている郁の身体はさらなる反応を示し出した。充分に潤った入り口が、挿入を求めてひくひくと震え始める。
身体の中心がむずむずして熱い。その場所に刺激を与えたい一心で、跡部に口腔を犯されながら、郁はもじもじと太腿を擦り合わせるような仕草をしはじめる。
自分自身を慰めるその行為は、しかしすぐに跡部に気づかれてしまう。彼女から唇を離した跡部は楽しげに笑って、焦点の定まらない瞳で自分だけで良くなっている、はしたない彼女をからかった。
「……お前、ひとりの時もそんなふうにしてんのかよ?」
しかし、郁は跡部の言葉の意味を理解できず、不思議そうな顔をする。
「ま、わかんねぇならいいか」
そんな彼女を見下ろしながら、しかし跡部は、少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
快楽に身悶える郁は、なんてかわいらしいんだろう。掠れた喘ぎを漏らしながら、懸命に自分自身を慰めている彼女の姿を、跡部は愛おしげに鑑賞する。瞳を閉じて、片手で両胸の膨らみを揉みながら、郁はもう片方の手で脚の間の小さな裂け目を弄っていた。
見られながらするのによほど興奮しているのか、真っ白な身体はほんのりと火照り、うっすらと汗をかいている。
「……は、……あッ」
ときおり漏れる声や吐息も、本当に気持ちよさそうだ。香り以外は何も纏っていないから、彼女がどこをどんなふうに弄っているのかも、跡部にはよく見える。
当初、割れ目を何度もなぞっていた細い指先は、今は繋がりあう場所に差し入れられて、緩やかに動いていた。浅い場所をかき混ぜたり、抜き差ししたりして、自分自身を追い詰めている。
しばらくして、ずっと胸を触っていた手が下に降りてきた。もどかしそうに、その手は下肢の突起を弄りはじめる。よほど良いのかひときわ甘い声を漏らして、郁はさらに脚を大きく開いた。指を差し入れているその場所を跡部に見せながら、恍惚に浸った表情で腰を揺らす。粘性の水音と彼女のうっとりとした息遣いが、跡部の耳に届く。
無意識に、跡部は喉を鳴らしていた。「してみせろ」と命じたのは自分なんだけど、まさかここまでいやらしい姿を見せてくれるとは思わなかった。普段の清純さと今の発情しきった姿とのギャップに、跡部の呼吸は浅くなる。
突起をいじりながら出し入れするのがよほど好きらしく、さきほどから郁はその動きばかりをしていた。細い指を自分自身の奥まで埋めて、そしてゆっくりと引き出して、また奥まで差し入れる。それだけの動作を、下肢の突起をいじりながら、彼女はひたすら繰り返している。
透明な体液が彼女の裂け目から滴り落ちて、シーツに小さな染みをつくる。跡部に見つめられながら、郁は自分一人だけで、さらなる高みにのぼっていく。差し入れられる指の数は増えて、突起を弄る指先の動きはさらに激しさを増していく。
表情や身体の様子からいっても、もう少しで頂を迎えられる、といったところで、郁は薄く目を開けて跡部を呼んだ。
「せ……、んぱい……」
切なげに掠れた声を、しかし跡部は撥ねつける。
「……そんな顔したってダメだぜ」
「でも……」
一人では最後までいけないらしく、郁は自慰を続けながら、跡部にすがるような視線を送る。何度か不毛なやりとりを繰り返したあと。
「……ったく、仕方ねぇな」
ついに根負けしたのか、跡部は彼女に向き直る。
「……指でされるのと舐められるの、どっちが好きなんだ?」
彼女のお気に入りの場所を、彼女の大好きなやり方で可愛がってやりながら、跡部は郁に尋ねかける。
「どっちも大好き……」
身体の中心から体液を溢れさせながら、とろんとした瞳で彼女は答える。幸福そうに呼吸を漏らす。ふいに郁が身じろぎをする。先ほどまで息を潜めていた、バラとムスクの芳香がにわかにたちのぼる。
跡部の加虐心がさらに煽られる。うっとりと恍惚に浸っている可愛らしい彼女を、もっといじめてやりたくなった。内壁を指先で擦り上げてやりながら、跡部は重ねて郁に尋ねる。
「……見られながら自分でするの、どうだった?」
そんないやらしい問いかけにも、跡部の性戯に酔わされてしまっている郁は、しかし素直に答えてしまう。
「すごくよかった……」
「……かわいいやつだな」
その返答に満足すると、跡部は彼女の中から指を引き抜いた。用意していたラテックスの個包装をポケットから取り出し、口にくわえてボトムを下ろす。装着して、その場所に宛がった。彼女の小さな頷きを見届けて、跡部はそのまま中に押し入る。
すでに何度も達している、郁の中はとろけそうなほどに熱い。入れられたばかりなのに、彼女は激しく締めつけてくる。あまりの良さに、相手も自分も長く保たなそうだなと思いながら、跡部は心の中でつぶやいた。
(……まぁたまにはいいか、こういうのも)
彼女に無理はさせたくない。郁のほっそりとした脚が跡部の腰に回される。繋がり合っているその場所が上を向き、彼のものがさらに奥まで入れられるようになる。促されるままに、跡部は自分の腰を進める。
「……ッあ、ん」
その場所がいっそう満たされた喜びに声を漏らして、郁は細い腕を伸ばして跡部にしがみつく。跡部もそれに応えるように、彼女を強く抱きしめ返す。二人の身体がぴったりと密着し、互いの距離がゼロになる。
けれどそれでも飽きたらず、郁は白く細い腕と脚を、懸命に跡部に絡めてくる。求められる幸せを噛みしめながら、跡部は彼女に問いかけた。
「……気持ちいいか?」
郁はこくりと頷き返す。
「どんな感じ?」
「じわじわして、へんな感じ……」
「そーかよ」
愛らしい返答に跡部は笑う。そうしたら、唐突に耳元で囁かれた。
「せんぱい、大好き」
不意打ちにドキリとする。けれどすぐに余裕の笑みを作って、跡部は郁に囁き返した。
「――俺もだよ」
***
何度も愛し合ううちに、そのまま気を失うようにして、彼女は眠りに落ちてしまった。疲れのにじんだ寝顔を眺めながら、跡部は郁の髪を撫でつける。ふと、香りを感じた。柔らかく儚い、残り香のようなラストノート。彼女の体温で変化した、世界に一つだけの香りだ。
カーテンの隙間から差し込む日の光に気がついて、跡部は時計を見た。いつのまにか明け方だった。いいかげん自分も眠らなければ。
「……おやすみ、郁」
また明日なと心の中で付け加えて、跡部は愛らしい寝顔に口づける。自分もベッドに横になって、華奢な身体を抱きしめて瞳を閉じた。たったひとつのバラが、またふわりと香った。