*Short DreamT*

□【忍足/他校】氷帝、忍足侑士の災難
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 唐突に振動した携帯を、忍足はポケットから取り出した。

「誰やろ……」

 見ると、それはメールだった。

『プリッ、撮影は順調かの? 詳細はここをクリック』

 珍しい相手からの突然の連絡に、忍足は首をかしげる。

「……何やねん、コレ」

 しかも、この内容は何だろう。訝りながらも忍足は、メール文末のURLをクリックする。

『某月某日天気晴れ。東京行ったら先輩のイトコがドラマの撮影しとった。せっかくなので俺も参加して路チュー写メゲット。記念にアップ』

 しかし、その容赦ないブログの内容に、忍足は思わず携帯を足元に叩きつけそうになったのだった。





白石+忍足(侑)



『……お、氷帝の忍足くんか? どないしたん?』

「白石ぃ! お前んトコの二年どうなっとんねん!!」

 数コールで出た知り合いを、忍足は思い切り怒鳴りつける。知り合いといっても実は、知人以上友人未満の微妙な間柄なのだが、そんなことを気にしている場合ではない。……忍足が電話をかけたのは白石蔵ノ介。関西の強豪校、四天宝寺のテニス部部長だ。

「人ンこと勝手に写メったあげく、ブログにまで上げくさってからに!」

『写メ? ああ、あのドラマの!』

 もう情報がまわっているのか、白石は楽しそうな声を上げる。その脳天気な口調に忍足はうっかり口をすべらせる。

「ドラマちゃうわ! 完全プライベートや!」

『……やっぱアレ、ガチやったんやねぇ』

「ッ!」

 しまったと思うがもう遅い。一度口から出てしまった言葉はもうどうしようもない。忍足はほぞをかむ。本当はチューじゃなくてギューだとか、色々訂正したいことがあるんだけれど、これ以上墓穴を掘るのもイヤなので、それは黙っておく。

 しかし、白石はくすくすと笑いながら、当然の疑問を口にする。

『今更隠すことないやん。それで相手誰なん? あの写真やとよう見えへんかったわ』

 けれど、そんなことを聞かれても、もちろん教えられるわけはない。忍足はいくぶんか冷静さを取り戻すと、つとめてクールに言い放った。

「別に誰かてええやろ。それより、あの二年の携帯の……」

『教えてくれんのなら、財前の連絡先は教えられへんよ?』

 なんて世知辛い世の中なんだろう。忍足はこめかみをひくつかせる。

「……お前ホンマええ性格しとるな」

『そんなこと言うてええん?』

 白石は電話の向こうでニコリと微笑む。

『つか、財前のアドレスなん、それこそ君のイトコに聞けばすむ話なんちゃうん?』

「……っ!」

 痛すぎるところを突かれて、忍足は声にならない声をあげる。そう。イトコの謙也にだけはこの件を知られたくなかったから、わざわざただの知り合いの白石を選んで、電話をかけていた忍足だった。

「……それは」

 忍足の絞り出すような声を聞きながら、白石は楽しげに笑う。

『ふふ、冗談やで。財前には俺から消すよう言っとくわ。盗撮は一応犯罪やからな』





真田+幸村+赤也



 ここは立海大付属の近くのファミリーレストランだ。黒いキャップを目深にかぶった彼は、テーブルの上で握り拳をつくり、忍足を思い切り非難した。

「……アイツめ、たるんどるっ!」

「別にいいじゃない。それにしても、うらやましいな」

「しかしだな、幸村!」

 幸村と呼ばれた彼は、真田の剣幕にも構わずに、のんきにドリンクバーのお茶をすする。

「しかし、相手誰なんですかね〜」

 その二人の横で、さっきまで真剣に問題集に向かっていた彼が、おもむろに顔を上げる。もじゃもじゃのわかめヘアーがトレードマークの、立海の二年生、切原赤也だ。いつの間にか、彼の手には携帯電話が握られていた。

「拡大しても、相手の顔はわかんないんスよね〜」

 忍足さんはバッチリなんスけど、と続けて、赤也は携帯の画面を真田と幸村の二人に見せる。画面には、先ほどのブログ画像を拡大したモノが表示されていた。忍足の姿は間違えようのないレベルでしっかりと確認できるのだが、肝心のお相手の方は、彼の胸元に顔を埋めているせいで、よくわからない。

「ふふっ、じゃあ本人に聞いてみよっか?」

 穏やかに笑って、幸村はカバンから携帯を取り出す。機種変したばかりの最新のスマホだ。

「え! 幸村部長、忍足さんの連絡先知ってるんスか!?」

「ちょっと、ある筋からね」

 にこにこと微笑みながら、幸村は携帯を操作する。期待に満ちた瞳で幸村を見つめる赤也と、妙に楽しそうな幸村を眺めながら、真田は盛大なため息を吐いた。

「……まったく」

 しかし、ふと真田は、赤也の手元の問題集の異変に気がついた。数十分も前から解かせているのにもかかわらず、その回答欄は真っ白だったのだ。

「おい赤也! そんなことより、英語の課題は終わったのか? 見せてみろ」

 思わず、真田は赤也の問題集に手を伸ばす。

「……ちょっ! やめてくださいよ、真田副部長!」

 慌てて赤也は、問題集を隠そうとする。

「おいコラ、赤也っ!」

 にわかに騒がしくなった二人を横目に、幸村はポツリとつぶやいた。

「残念、話し中だ……」





柳生+ジャッカル+ブン太+仁王



 同じ頃。ここは立海近くのファーストフード店だ。

「まったく、最近の若い方はいけませんねっ!」

 自分の年齢は考えず、そんな批判を口にして、柳生はメガネを押し上げる。

「しかし、最近の携帯カメラってすげぇな。ホントよく撮れてるよ」 

 携帯の画面をまじまじと見つめながら、ジャッカルは感心する。表示されている例の画像は解像度がとても高く、忍足の表情のみならず、背景の看板の文字までしっかりと読み取れてしまうのだ。俺も気をつけよとこぼしてから、ジャッカルは携帯をポケットにしまう。

「……何、お前相手いんの?」

 しかし、ふとしたセリフを聞きとがめ、ジャッカルの隣に座るブン太は、シェイクのストローから口を離した。口の端を上げて、からかうような視線を送る。

「ちっ、違ぇよ! 何だよその目は!」

「コラっ! 丸井くん、失礼ですよっ!」

 わあわあと騒ぐ三人を尻目に、仁王は頭の後ろで腕を組む。

「……もうコメント十五件、忍足もかわいそうにのぅ」

コート上の詐欺師は、意外と心優しかった。





白石+諸悪の根源



『……というワケなんや。だから写真だけでも、消したってくれへん?』

「…………」

 口をへの字に曲げたまま、財前は電話越しに白石の声を聞く。

『つか、盗撮は一応犯罪やからな? 今回は知り合いやったから、大事にならへんかったけど……』

 穏やかな声ではあるけれど、その内容はお小言だ。

「……わかったっス。ホンマ部長はマジメっすね」

 不満げに、財前は言い返す。

『財前』

 白石の優しい声に、ほんの少し怒りが混じる。

「あんなの、ただの悪ふざけじゃやないっスか。つか、悪いのは道端でラブシーンしてた氷帝のあの人でしょ!」

『……財前、そういう問題やないで?』

「あーもー、消しますって! ちゃんと記事ごと!」

 ふてくされた表情で、しかし財前はパソコンに改めて向き合う。携帯を左手に持ち替えて、右手だけで操作をする。マイページにログインし、問題のブログ記事を探し出して削除ボタンを押そうとしたとき、ふと財前は気がついた。

「……あ」

『どしたん?』

「コメントもう四十件もついてますわ、部長」

 いつの間にか、ブログのヒット数もえらいことになっていた。最高記録っス、というなげやりなセリフを聞きながら、白石は心の中で手を合わせた。

(忍足くん、ホンマご愁傷様やで……)

 忍足の受難は、その後もしばらく続いたという。
 

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