*Short DreamT*

□【忍足/一族】GET THE GLORY
1ページ/1ページ

 青春時代で人生が決まる?

「センターまであとちょっとやで、ユーシ!」

「……わかっとるわそんなん、つか何の用やねん謙也」

 まだ明るい街路を制服姿で歩きながら、忍足は電話の相手にそう返した。いつも冷静沈着な彼には珍しく、声には多少の苛立ちが含まれている。

「ええやろ別に! カッコよくてかしこい素敵イトコの、たまの息抜きくらいつきあえっちゅーねん!」

「……つか、同じ大学の同じ学部受けるヤツにそんなこと言われたかあらへんわ。

つか、俺の方がモテとるし」

「同じトコ受けるからこそ言うとんねん! あと、イケメンさなら俺の方が上や!」

 疲れた口調で言い返しているのにも関わらず、電話の相手はいやにハイテンションだ。どうやら向こうも、受験のストレスでちょっぴりおかしくなっているようだった。忍足は内心で息を吐く。自分のイトコとはいえ、仕方のないヤツだ。少々呆れ気味の忍足にはお構いなしに、彼のイトコ――謙也は話を続ける。

「つかホンマうちのオカンが最近めっちゃうっさいねん。今さらヤイヤイ言われたかて、受かる可能性なん上がらんわボケ!一人暮らしのユーシがホンマうらやましいわ」

「……そんな話なら切るで?」

「待ちぃや! まだ話は終わっとらへんで! あと、うちの弟もな……」

 忍足にずっと邪険にされているのにも関わらず、謙也はハイテンションな語り口で延々と愚痴り続けている。内容はこの時期の受験生にありがちな、下らない、けれど、本人たちにとっては重要なものなのだが、幸か不幸か謙也の勢いのある脳天気なしゃべり方のおかげで、悲壮感はあまり感じられない。

 もっとも、電話の向こうの本人の本当のところなんて、こちらからではわかりはしないのだが。

 忍足はふと自分の通う氷帝学園の同じクラスの面々を思い出していた。そういえば、自分も含めた外部受験組のうち何人かは、既に憔悴しきった顔をしていた。よほどプレッシャーをかけられているのだろう。とはいっても、そういう自分も最近ちょっと食が進まなくなってしまっているんだけれど。

 謙也の話に仕方なく付きあいながらも、忍足は一人で家路を辿る。正月の明けたばかりの一月の空気は、澄んでいるけどとても冷たい。

 白い息を吐きながら、忍足はしばらく謙也の相手をして、電話を切った。そして、あることを思い立って、自分の家とは違う方向に足を向けた。



 その神社は、自分の家から十五分程度歩いたところにあった。ここ数日の大雪で、ひたすら真っ白な世界になってしまっているけれど、真っ赤なツバキが、未だに凜と咲いている。

 ここは毎年、忍足が初詣に来ている小さな神社だ。鳥居をくぐり、忍足はところどころに雪の残る石段を一歩一歩のぼっていく。一応雪かきはされているようなのだけど、濡れた石の上を歩くのは少し怖い。しかしなんとかのぼりきると、そこには雪をかぶった拝殿があった。

 それを見て、年明けすぐにここ一緒に来た相方のことを、忍足は思い出していた。妙に真剣に手を合わせていたから、何をお願いしていたのか聞いたら、自分が志望校に合格するように、懸命にお祈りしていたらしい。

 そのあと、いつのまに買っていたのか、かわいらしいサクラ色の『合格祈願』のお守りを渡されて、なんだかがらにもなく幸せな気持ちになってしまったのだ。

 そのときの自分は、きっとものすごくニヤけていただろう。イトコには見せられない表情だ。

(……つらくても、今は踏ん張らんとアカンな)

 机の上に置いてあるそのお守りを思い出しながら、忍足はそんなことを思う。

 今こそ、頑張らなくてはいけない時なのだ。自分のために。そして、自分を心から応援してくれる人たちのために。この試練にどう向き合ったかで、文字通り自分の人生が変わってしまうのだから。

 出来ることは全部やってきた自信がある。確かに難しい目標ではあるけれど、自分の夢は、もうあとほんの少しで手が届くところにあると、そう信じたい。本当は、少し怖いけれど……。

(でも、絶対合格したるわ)

 拳を握りしめ、改めて誓いを立てる。

 桜が咲く頃にはきっと、また新しい自分に出会えると思いたい。もう自分には、悩んだり落ち込んだりしている時間はないのだ。

「帰ったら、最後の追い込みせんとな」

 眼前の学問の神様にそっと手を合わせて。自分の志望校のボーダーを思い出し、忍足はそんなことをつぶやいた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ