*Memo*

□【共通/慈郎】星降る夜に
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 びゅうびゅうと風の音が聞こえる。今日も天気は悪い。

(なんかもう台風みたいだC〜)

 慈郎は外を見た。店番をしているカウンターから、自動扉の向こうの様子をうかがう。この時期らしいあいにくの曇天で、雨は降っていないようだけど、風がとても強い。

 緑の葉を茂らせた街路樹はザワザワと揺れ、通行人も顔をしかめながら、あるいは髪の毛を押さえるようにしながら、皆そそくさと早足で歩いている。まるで嵐の前触れだ。

 自分の実家であるクリーニング店の外に飾ってある七夕の笹も、強風にしなって、今にもなぎ倒されそうになっている。笹飾りを固定している紐も、心なしか緩んでしまっているようにも見える。

(う〜ん、心配かも……)

 自分以外に誰もいないカウンターから離れるのは少し気がとがめたが、少しの間なら大丈夫だろうと思い直して、ジローは外に出た。



 ごうごうびゅうびゅう。風の唸りが両方の鼓膜を、今度は直接震わせる。容赦なく煽られて金色の巻き毛がくしゃくしゃになる。

 慈郎は笹飾りのもとに駆け寄って、飾りを固定している紐を改めて強く縛り直した。これでオッケーだ。そして、さあ戻ろうとしたとき。

「あ」

 思わず声が出ていた。ちょうど目の高さに揺れているうすピンクの短冊と、それに書かれている見覚えのある名前。

『氷帝テニス部が全国優勝できますように!』

 少しだけ丸みを帯びた綺麗な字で、気合いを入れて大きく書かれた願い事。けれど、慈郎は思わず吹き出してしまう。その隣には小さくこう付け加えられていたからだ。

『あと、成績が上がりますように(とくに英語)』

 なんで『特に』がひらがななんだろう。



 懐かしさにも似た温かな気持ちがこみ上げて、慈郎の胸はほんの少しだけしめつけられる。甘くほろ苦いギュッとした痛みだ。奇しくも今日は恋人たちの記念日。現在遠距離恋愛中のあの二人は今、どこで何をしているんだろう。

「……ちゃんと会えてれば、イイな」

 らしくない願いを、曇り空の向こうにかける。人の恋路には今も興味はないけれど、あの二人だけは特別だ。

『――天の神様お願いします』

 ミルキーウェイに願いをかけて。強い風の中小走りで、慈郎は店のカウンターに戻る。

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