*Shoet DreamU(更新中)*
□【未来編/跡部】time after time
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「……も、ケイタたち向こうにいるのに」
視線を泳がせながら、郁は跡部の腕の中から逃げ出そうとするが。もちろんそれを許す跡部ではない。離さないとばかりに、跡部は郁を抱きしめる腕に力を込める。
「向こうからじゃ見えねえよ」
「ま、またそんなこと……!」
「それに見えてたっていいだろ。両親の仲の良さは子供の教育にもいいんだぜ」
「も、景吾さん……」
つい先ほどまであんなにもうろたえていたくせに、跡部の甘い一言に郁はあっさりとほだされてしまう。やっぱり愛する旦那様には敵わない。
「……出張にもお前を連れて行ければいいんだがな。出張自体は別に構やしねえんだが、お前と離ればなれなのがキツイぜ」
青い瞳を愛おしげに細めて、跡部は郁の頬に手をやった。ほんのりと赤く染まった彼女の右頬に片手を添える。
「……も、ケイタとケイジに会えないのはいいの?」
「よくねえが、まずはお前だ」
子供よりもまずは妻。跡部はそんな夫だった。結婚して何年も経つけれど、今でも新婚当初のように仲がいい。そんな彼に嬉しくなったのか、郁は目尻を下げて微笑んだ。
「……景吾さんは単身赴任なんて無理ね」
「ああ無理だな。お前だけは絶対に連れていくね。どこへ行くにも」
たとえ祖国を離れた遠い異国の地でも。連れていく、離さない、離したくない……。跡部の強い言葉に、郁は喜びの涙を浮かべる。大きな瞳を潤ませて、遥か昔を思い出す。
跡部の情熱に胸を打たれて彼を追いかけて自分が祖国を離れてから、
一体どれほどの年月が流れたのだろう。多感で繊細だった十代のきらめく宝石のような思い出が脳裏に蘇り、郁はそっと瞳を閉じる。
あれからもう十五年以上。けれど、二人を繋ぐ想いは変わらない。今も嬉しい言葉をもらって幸福に浸っている。「お前と離れるのが嫌だ」なんて。
跡部はとても強い人だ。それこそ、郁がいなくても一人でやっていけるくらい。それは彼女も分かっている。
けれど、そんな彼に必要とされるのが嬉しいのだ。愛されて、求められる幸せ。それら無上の幸福を惜しみなく与えてくれる跡部に、郁は改めて感謝を伝える。
「……いつもありがとね、景吾さん」
逞しい腕の中で背伸びして、触れるだけのキスをした。
「私も景吾さんの行くところになら、どこにだってついていくよ」
――そう、あなたと一緒なら。私はどこでだって生きていける。懐かしい祖国の桜の下で、郁は改めて愛する彼への想いを確かめる。