*Shoet DreamU(更新中)*

□【跡部】ユア・バケーション
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夜景の美しい高層階。もう夜も遅い眠る前の時刻。
跡部が手配してくれたホテルの一室で、郁は彼の携帯をいじっていた。
この旅行の間に撮影した沢山の写真。それを見せてもらっていたのだ。
最新型のスマホで使い方はよくわからないけど、撮った写真はどれもすごく綺麗で、
郁は写真を眺めながらこの旅の思い出に浸っていた。
明後日の朝にはもう帰国しなければならない。
実質最終日の明日は何をして過ごそうか。そんなことを考えながら、郁は上機嫌で画像を表示させていく。
水族館で撮ったウミウシにイルカ。青空の下咲き誇る鮮やかなハイビスカスに、二人で散歩した夕焼けのビーチ。
綺麗なレイ――花輪を首に掛けてマルガレーテと写っている自分の写真もあって、
郁はなんだか恥ずかしくも嬉しくなってしまう。けど。
「あっ! 何ですかコレ!」
「…あん?」
「ヒドイです景吾先輩、何で勝手にこんな写真撮ってるんですか!!」
画像フォルダの奥に隠されるようにして保存されていた一枚の写真。
ベッドですやすやと眠る郁の姿だ。
横向きで両手を口元にやって、幸せそうに眠っている。
掛け布団がわりにしているブランケットからのぞいているのは裸の肩口で、
乱れた髪は確実に事後だ。
あまりにも無防備な姿。見る人が見れば確実にそうとわかる写メに、郁は焦る。
消したくても消し方がわからない。消そうとしても保護されているらしく、パスワードを要求されるのだ。
「のん気にグーグー寝てるヤツが悪いんだろ」
「えー!!」
たしかに、のん気だったかもしれないけど、寝坊の原因の半分は跡部にだってあるのに。
けれど、そんなことを口に出すのは恥ずかしく、郁は言い返せない。不満げに跡部を見つめる。
しかし、これはさすがに悪いと思っているのか、跡部も気まずそうに言い訳をする。
「…別にいいだろ、一枚くらいそういうのがあっても」
そういうのってどういうのですか! 
いつもならそう怒る郁も、珍しく申し訳なさそうにしている跡部に、怒る気力をそがれてしまう。
どことなく頬を染めた照れたような様子に、愛しさすら感じてしまう。
「…っ、誰にも見せないで下さいよっ」
しかしさすがに、郁のこの発言には跡部も腹を立ててしまう。
「ッ、当たり前だろ!」
むしろ、見たヤツは八つ裂きにするというくらいなのに。
当の彼女本人にそんな言い方をされてしまって、跡部の男心はちょっとどころでなく傷つく。
けれど、ある意味においては自業自得だ。
妙に気まずくなってしまった雰囲気の中、跡部はこの写真を撮影したときのことを思い出す。
無邪気で可愛い彼女の、一番無防備な姿。
自分に愛されたあとの、満ち足りた、幸せそうな寝顔をずっと眺めていたくて、
つい消音カメラで写真をとってしまったのだ。
とはいえ、そんなことをご本人に伝えられる殊勝さが跡部にあるはずもなく。
小さく息を吐くと、跡部は口を開いた。
「…しょうがねぇな。じゃあ代わりに俺様の写メ撮らせてやるよ」
「えっ?」
「ありのままの、美しい肉体をな!」
歌い出さんばかりの勢いでそう言って、跡部は唐突に自分のトップスに手を掛けた。
豪快に、無意味にカッコ良く脱ぎ捨てる。
鍛え上げられ、筋肉で引き締まった上半身が露わになる。
「い、いりませんっ!!」
「何で青ざめるんだよテメーは。冗談に決まってんだろ」
失礼だな。赤くなったり青くなったり忙しない郁に、跡部は呆れる。
脱いだTシャツを手に持ったまま、片手を腰にやる。
「先輩が言うと冗談に聞こえないんです」
日頃から鍛えてる人はその成果を見せたがるって言うけれど。
跡部のこれは、ただのからかいだろう。
「…っていうか、普通にテニスしてるときが一番カッコイイですよ」
「チッ、つまんねぇヤツだな」


***

「まさか跡部さんに練習相手になってもらえるなんて思ってませんでした!」
「感謝しろよ鳳! ハーッハッハハハ!!」
早朝のテニスコートに響くのは、上機嫌の高笑い。
「今日も太陽は俺様のために輝いてるぜ!」
そう言って指を鳴らした跡部は、羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てた。
いつかの公式試合でそうしたように天に向かって放り投げる。
今日の跡部は機嫌がいい。朝からフルスロットルだ。
コート脇にとさりと落ちたパーカーに、思わず郁は頭を抱える。
樺地もギャラリーもいないから、誰も拾いに行く人がいないのだ。
けれど自分が行く気にはなれなかった。
「元気出せよ。結城」
郁の隣の宍戸が、宥めるように彼女の背中をさする。
二人はコート脇のベンチに腰掛けて、跡部と鳳の練習試合を眺めていた。
非日常感が売りの海外リゾートのはずなのに、あまりにも懐かしすぎるメンバーに、
郁は母校のテニスコートにいるような錯覚を覚えてしまう。
違うことといえば、コート周りのヤシの木と、
みんなが氷帝ジャージではなくTシャツ姿だということくらいだ。
「オイ郁、俺様の勇姿をしっかりとその目に焼きつけておけよ!」
コート内からの突然のご指名に、彼女はビクリと身体を震わせる。
「ハハ、お前も大変だな」
「…平気です。いつものことですから」
「それもそうだな!」
跡部の奇行にも、そして郁の不審な挙動にも、宍戸には動じる様子はない。
明るく笑い飛ばして、逆に妙に気落ちしている様子の郁を励ましている。
そもそも長い間テニス部で一緒だったのだ。跡部の突飛な振る舞いには慣れっこだ。
「でも、何でこんなことになったんだよ」
「テニスしてるとこが見たいって…」
本当は言ってないんだけど。
けれど、跡部の脳内ではすっかり郁がそう言ったことになってしまっているらしく、
彼女は語尾を言いよどむ。
「まぁ確かに、一番アイツらしいとこだよな」
けれど宍戸は、そう言ってにかっと笑う。
その笑顔に、郁はいくぶんか冷静さを取り戻した。
「…そうですね」
確かに彼の言う通りだ。跡部にとっては、きっと一番大切なもの。
それをこんなに近くで見せてもらえるというのなら、むしろ感謝すべきなのかもしれない。
「お、始まったみたいだぜ!」
宍戸に促され、郁は慌ててコートを見つめる。
おしゃべりをしているうちに、いつの間にか打ち合いは始まっていた。
ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ、跡部サービスプレイ。
すぐ目の前で繰り広げられる、迫力あるプレー。
コート横のベンチはこれ以上ないくらいの特等席。
テニス部員でも限られたメンバーしか座れなかっただろうその場所から、
郁は宍戸と一緒に跡部と鳳の打ち合いを眺める。
ボールが飛んできそうでヒヤヒヤするくらいだけど、
跡部のお遊びではないプレーをこんなに近くで見たのは、初めてかもしれない。
華やかで攻撃的で、容赦なく相手を追い詰めてゆくプレイスタイル。
けれど鳳も負けてはいない。長身を生かした強力なショットで反撃する。
二人とも本気なわけじゃないけど、かといって手を抜いているわけでもない。
真剣な、楽しそうな打ち合いだ。
そして。跡部のスマッシュが決まり、早速彼が1ゲームを先取する。サービスキープだ。
「わあ…」
「…もうかよ」
やはりというべきか跡部主導で進む試合に、郁は喜び、宍戸は感心する。
コート上でもやりとりが交わされる。
「…さすがですね、跡部さん」
「あーん、当然だろ」
常夏のリゾートの青空のもと、跡部と鳳は楽しげに対峙する。
カウントは1-0の跡部リード。しかし、鳳は自信ありげに微笑んだ。
「でも、次は取らせませんよ」
チェンジコート。
第1ゲーム終了時には休憩はなしだ。二人はすぐにコートを交代する。
そして、跡部は腰を落としてラケットを構え、鳳はポケットからボールを取りだした。
「お、次は長太郎のサーブか!」
楽しげな宍戸に、郁は思い出す。鳳はサーブで有名なのだ。
中等部二年のときに、その一本で栄えある氷帝テニス部正レギュラーの座を勝ち取った、強力サーブ。スカッド。
ずっと大好きな跡部ばかり見ていた。郁は初めて鳳に注目する。
何度か地面にボールをバウンドさせてから。鳳はトスをあげてサーブを打つ。
「…はぁっ!」
口癖の、あの掛け声ない。けれど、鳳のサーブはスカッドではないにせよ速かった。
ボールの軌道は郁の目には見えず、瞬く間に跡部のコートに着弾する。けれど。
「…何だ鳳そのサーブは!!」
迫力ある一喝とともに、跡部は鳳のサーブを返した。
コーナーギリギリに決まる鮮やかな一打。リターンエースだ。
入魂の一球ではないけれど。得意のサーブを明らかにお遊びではないテンションで返されて、鳳は唖然とする。
「跡部さん…」
宍戸もまた、驚いたように呟いた。
「…遊びじゃなかったのかよ、跡部のヤツ」
しかし跡部は呆れる鳳と宍戸には構わず、どこか得意気な様子で流れる汗をリストバンドでぬぐう。
そして一瞬だけ郁の方に視線を送ると、不敵な笑みを浮かべた。
『――惚れ直しただろ?』
とでも言いたげなその表情に、郁は思わず笑みをこぼす。
周囲には秘密の二人だけのやりとりに、嬉しくなってしまう。
鳳や宍戸の前ではどこまでも厳しい跡部部長。でも、郁の前ではカッコよくて可愛い景吾くん。
そのギャップが愛しくてたまらない。
しかし、跡部の言葉にプライドを刺激されたのか、鳳はきゅっと唇を引き結ぶ。
「…ッ! 次は返させません!」
ネットの向こうの跡部に強い視線を送る。ボールを取りだして、トスアップ。
「一… 球… 入… 魂っ!!」
お馴染みのかけ声とともに放たれた、必殺サーブ。
先ほどよりもさらに速いその球速に、郁は息を呑む。
コントロールの悪さは克服したって聞いたけど、それを差し引いても、
自分の方に飛んできたらと思うと、軽い恐怖すら感じてしまう。
しかし跡部は、それをあっさりと返す。
「――甘いぜ!」
お遊びの練習試合のはずが、いつのまにか二人ともすっかり本気になっていた。
お互い大の負けず嫌い。たとえバカンスのレジャーでも、テニスで負けるのはイヤだった。
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