*Shoet DreamU(更新中)*

□【忍足】二回目の卒業式
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 つぼみの膨らんだ桜を見上げたら、また涙をこぼしそうになってしまった。幼稚舎から高等部までの十二年間過ごしたこの氷帝学園とも、今日でお別れだ。卒業式もその後のホームルームも全て済ませて、郁は正門を一人で出た。振り返って、思い出深い学園の校舎を眺めながら、大切な人にメールを打つ。



 ――侑士先輩へ。

 ついに今日、高等部の卒業式でした。幼稚舎からずっと通っていた氷帝学園とも、今日でお別れです。十二年もいたからホントに感慨深くて、最後にはやっぱり泣いてしまいました。嬉しかったことも、苦しかったことも、いっぱいいろんなことがあったけど、氷帝で良かったと思いました。

 氷帝で、先輩と出会えてよかった。先輩と一緒の学園生活、すごく楽しかったです。年がひとつ違うから最後の一年は離ればなれだったけど、春からはまた一緒に過ごせるね。大好きな先輩と一緒の大学生活、すごく楽しみにしてます。

 ――郁より。



 打ち終わって、携帯をしまって、彼女はつぶやくように言った。

「……それじゃあ、行ってくるね」

 さよならと言わなかったのは、お別れではなく新たなる旅立ちだと思いたかったからだ。十二年間過ごした氷帝学園から、そして十七年以上も過ごした東京から。今日、彼女は巣立ってゆく。

 思い出のたくさん詰まったその場所に背を向けて、郁は駆け出した。不意に強い風が吹き、並び立つ桜の木々を揺らす。今日も空は、泣きたくなってしまうくらいに、青く高く澄んでいた。

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