*Shoet DreamU(更新中)*

□【忍足】君のいないこの部屋で
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「…何や、暇やわ」
一人暮らしの自分の部屋で晩ご飯を済ませてから、忍足はぽつりとつぶやいた。
ここは自分の通う大学近くの関西のマンション。
がらんとしたリビングには、今は自分一人だけしかいない。
今までは高三の受験生だった恋人の郁が、
関西の大学を受ける都合でずっと自分の部屋にいたんだけど、
つい先日見事に志望校に合格を果たした彼女は、
卒業式への参加や引っ越しの準備で東京に戻ってしまっていたのだ。
リビングのソファーに座ったまま、忍足は改めて室内を見回す。
大して広くもないはずの部屋が、なぜかとても広く思える。
ごちゃごちゃしたレイアウトがイヤで頑張ってシンプルに纏めた自分の部屋が、妙に寒々しく感じる。
クールなモノトーンも、今はただの色褪せた世界にしか感じられない。
我が家はこんなに殺風景だっただろうか。
「……」
自分で淹れたコーヒーを啜りながら、忍足は郁がいたときのことを思い出す。
学校が自由登校になってすぐに郁は勉強道具を持ってこっちに来てくれたから、か
なりの期間この部屋で一緒に寝起きした。
といっても自分には大学があったし、彼女も受験勉強をしなければいけなかったから、
ずっとイチャイチャというわけにはいかなかったけど、
自分が夕方に帰ったときはキッチンでゴハンを作ってくれていたり、
食後は二人でテレビを見たり、夜は一人用の狭いベッドでくっついて眠ったりしていたから、
ちょっとした同棲生活のようで毎日がすごく楽しかった。
だからこそ、今のこの部屋で一人という状況が思いのほかツライのだ。
“先輩、ゴハンできましたよっ!”“早くお風呂入ってくださいっ!”
可愛らしいソプラノが鮮やかに蘇る。
(…不思議やな。今までだって遠恋やったのに)
関西の大学に通う忍足と、東京の氷帝学園に通っていた郁。
二人は一歳違いでこの一年は遠距離だったから、忍足がこのマンションで一人の夜を過ごしたことは数限りなくある。
というよりは、長期休暇以外は郁は東京にいたから、ずっと離ればなれだったといった方が正しい。それなのに。
改めて今の状況を寂しいと感じてしまうのは、一緒にいた時間があまりにも幸せだったせいだろうか。
「――侑士先輩!」
「っ!」
不意に彼女の声が聞こえた気がして、忍足はあたりを見回す。
けれど、当然のことながら部屋は無人で、忍足は息を吐いた。
「…幻聴とか、ありえへんわ」
思っているよりもずっと、自分は彼女に依存していたらしい。
自分の女々しさを情けなく思いながらも、忍足は手の中のマグカップのコーヒーを飲み干した。
そしておもむろに立ち上がり、パソコンに向かう。
電源を入れて、受験生時代は非常に助けてもらっていた、愛くるしい“女神”の画像フォルダを開いた。


***

(…やっぱり、ホンマに“この子”もかわええわ)
ここしばらくはずっと郁がこの部屋にいたから、お世話になってはいなかったんだけど。
“この子”というのは、つい先日電撃引退を発表したばかりの、彼女にそっくりなセクシー女優だ。
清楚な妹系のルックスといやらしい演技で世の男性に人気を博していたのだが、
身体の具合が悪くなって仕事を続けられなくなってしまったそうだ。
(…引退ってもったいないよなぁ)
身体を張ったお仕事はやはり色々な意味でキツイのか、セクシー女優は短命なことが多い。
自分が受験生だった頃を思い出して懐かしい気持ちになりながらも、
忍足は何の気なしに集めた画像を流し見た。
浜辺でビキニではしゃいでいる姿や愛犬と無邪気に戯れる姿は、
本当に普通に可愛くて、言われなければセクシー女優だなんてわからない。
どこにでもいそうな可愛らしい女の子だ。
けれどそれらのノーマルな写真の隣には、勃起した男優のものを咥えている姿を写した画像もあり、
やはり彼女は女優さんなのだということを思い出す。
脱ぎかけの制服でベッドに寝そべっている姿に、忍足はつい喉を鳴らしてしまう。
清楚な彼女にはやっぱり制服姿がよく似合う。もしかしたら全裸よりも“そそる”かも。
(…つか最後にもう一回くらい、制服プレイしたかったわ)
パソコンの画面の隅に表示されている今日の日付を眺めながら、忍足はそんなことを考える。
現在の三月は卒業シーズン。
去年の今頃に自分が第一志望の大学に受かって、晴れて愛の営みが解禁になってから、
それはもう色んなことをしたけれど、制服での行為は思えば最初の一度だけだった。
あのときの痺れるような快感と喜びとを、忍足は思い出す。
記念すべき“初めて”で緊張と不安に瞳を揺らしていた郁を、優しく宥めながら抱いたのだ。
ようやく結ばれたその瞬間には、不覚にも嬉しくて泣きそうになってしまった。
郁も何度も自分の名前を呼んでくれて“大好き”とか“幸せ”とか嬉しいことをたくさん言ってくれた。
郁と抱き合っているときは例外なく幸せなんだけど、
あのときの想いが通じ合ったような、満ち足りた幸福感は格別だった。
制服での行為は、そのときのことを思い出させるのだ。
(でもそんなこと、本人には言えんしな)
彼女の肩を掴んで真顔でお願いをする自分を想像し、忍足はかぶりを振った。
“どうしても制服プレイがしたいんや。もっぺん着てみてくれへん?”
(ありえへん… ありえへんわ…)
これでは百年の恋も冷めてしまう。
それ以前に、晴れて大学生になったばかりの彼女に一体何を求めているのか。

制服への未練を断ち切って、忍足は他の画像に目を移した。
お風呂で泡にまみれている女優の画像に、この間のプレイを思い出す。
無防備な郁を後ろからイジメて、見事に風邪を引かせてしまったときのことだ。
(あんときも、むっちゃ可愛かったな…)
首筋を舐められながら脚の間と胸とを弄られて、心地よさそうに喘いでいたご本人の姿を回想する。
口ではイヤがっていたくせに身体の反応はすごく良くて、表情が見れなかったのが悔しかった。
でもその後はそれを埋め合わせるように、向かい合っての体位で何度もしてしまったんだけど。
(でも今時“絶対に何もしない”を信じるとか…)
不意に、忍足は郁の純粋さに不安を覚える。
彼女を信じていないわけではない。むしろ信じられないのは周囲のオトコどもの方だ。
普段自分がどんなことを考えていて、彼女に対してどんな欲望を抱いているかを考えれば、
他のオトコのことなんて信用できるはずがない。
(…いやさすがに、アイツもそこまでアホやあらへんやろ)
少し抜けているところもあるけど、彼氏もいて初めてだって済ませているんだから、
オトコがオオカミなことくらい、さすがの彼女だって分かっているはず。
けれど次の瞬間、忍足の脳裏に妖怪“ネコさらい”について真面目に議論していた郁の姿が蘇った。
(…………)
漠然とした不安が、リアルな心配に変わる。
三月は出会いと別れの季節。歓送迎会のような集まりも多く開かれているだろう。
さすがにお酒を飲んだりとかは年齢的にもないと思いたいけど、オールでカラオケくらいは充分あるかもしれなくて。
本人は夜遊びなんてする子じゃないけど、受験が終わってハメを外すオトコもこの時期は多そうな気がして。
頭の中まで可愛らしい彼女は、今一体何をしているんだろう。
一度気になりだしたら、なぜか止まらなくなってしまった。
ちょっと遅い時間だけど、電話でもしてみようか。
(自分の家やないトコにおったら、説教やわ…)
自分の日頃の行いは棚の上。現在の時刻を確認して、忍足はズボンのポケットに手をやった。


End
 

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