*Shoet DreamU(更新中)*
□【忍足】HONEY SO SWEET
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バレンタインの日の夜。ここは関西の忍足のマンションだ。忍足の彼女の郁は、夕食の片付けと食器洗いを終えてリビングに戻ってきた。
「あれ、これどうしたんですか?」
テーブルの上に見慣れないマンガが置いてあるのを見つけて、郁は思わず忍足に尋ねた。確かこれは持ってなかったはずだ。でも、タイトルは郁も知っている。今ドラマが放映されている話題作で、自分も読んでみたかった作品だ。
「ああ、何や気になってもうてな。買うてきたんや」
机の上には、一巻から現在の最新刊の七巻までがばっちり積んである。恋愛小説だけじゃなくて、実は少女マンガも結構好きで読んだりする、忍足は微笑む。
「今ドラマやってるやつですよね」
そう言って、郁は第一巻を手に取った。マンガにはしっかりとドラマの宣伝の帯がついていた。人気アイドルが主演で月曜日の夜九時放送。
「先輩、これ読んでみてもいいですか?」
リビングの二人がけのソファー。英語で書かれた医学書のページをめくる忍足の隣に腰掛けて、郁はもくもくとマンガを読んでいた。話題作だけあってすごく面白い。絵も綺麗で、キャラもストーリーも魅力的で、つい続きが気になって読みふけってしまう。
早くも数冊読んでしまい、今はちょうど前半のハイライト。他にすごく好きな人のいるヒーローが、別の女の子と一線を越えてしまうというシーンだ。報われない想いを抱える登場人物たちの葛藤と、裸の身体を重ねるセクシーな描写を、ドキドキしながら楽しんでいると、急に横から声を掛けられた。
「――どこまで読んだん?」
「え!?」
驚いて、つい郁は変な声を出してしまう。
「えっとあの……」
まさか「ソータがエレナとしちゃうとこです」なんて言えるはずもなく。郁はしどろもどろになってしまう。けれど、忍足はそんな郁の不審な言動には構わずに、ニヤリと笑った。
「……ソータがエレナとやっとるとこ?」
「えっ! なんでわかるんですか?」
「お前見とればわかるで、そんなん」
読んでいた医学書を放り出して、ニヤニヤと笑いながら忍足は郁にくっついてくる。
「ちょっ、先輩っ……!」
なぜか嫌がる郁に半ば無理やり抱きついて、忍足は吐息混じりで彼女の耳元で囁いた。マンガのそのシーンのヒーローの台詞。
「……『抱かせてエレナ』」
「ッ! も、やめてくださいッ!」
あまりにも色っぽい決め声でからかわれて、郁は慌てだす。声まで格好いい彼氏に色っぽいネタで意地悪をされて、もう平静ではいられない。
「私エレナじゃないですっ!」
焦った郁は、忍足に抱きつかれながら、そんな当たり前のことを叫んでいた。
「ははっ、まあその通りやな。つか俺もエレナはいらんし」
サエコもやけどな。そんなことを呟きながら、忍足は不意にメガネを外した。テーブルの上にそっと置く。
「……抱かせて? 郁」
至近距離で彼女の目を見つめて、忍足は真顔で囁いた。顔も声もすごくカッコイイ大好きな彼氏にそんなことを言われて、郁は顔を赤くする。からかわれていると思い込んで、プリプリと怒り出した。
「じょっ、冗談やめてくださいっ!」
忍足の腕を自分の身体から外そうとしながら、郁は叫ぶ。けれどもちろん、テニスで鍛えている太い腕は外れない。むしろ逆に、ギュッと力を込められてしまう。
「冗談やあらへんで、俺はいつでも大真面目や」
「そ、そんなこと言っても誤魔化されません!」
不毛な口ゲンカ、ならぬ痴話ゲンカがなぜか始まる。けれどむしろ、これはじゃれあいと言った方が近いのかもしれない。
「ええやん別に。チョコの前にお前を」
「ッ! ……お、おフロ! おフロもまだなのにっ」
「……仕方あらへんな」
***
「……何でこうなるの?」
「ええやん、マンガでもあったやろ?」
乳白色のお湯の中。郁はなぜか忍足と一緒に湯船に浸かっていた。マンガのそのシーンと同じように、体育座りの郁を後ろからかかえ込むようにして、忍足が座っている。恥ずかしくて抵抗したのに、結局丸め込まれてこんなことになってしまった。
お互いタオルを巻いているけど、お湯の中で裸同然の格好でこんなにもくっついて、郁はいやでも変な気持ちになってくる。けれど、忍足の左腕は、逃がさないとばかりに自分の腰に回されていて、郁は勝手にバスタブから出ることもままならなかった。大学生になった今でもテニスに打ち込むスポーツマンらしい、逞しい腕が憎らしい。
(せ、先輩の意地悪……)
この腕に捕らえられてしまったら、自分はもう逃げ出せない。
「……いっしょにフロ入るの初めてかもな」
「……え? ……は、ハイ」
後ろから声を掛けられて、郁はドキッとする。白いお湯がたぷんと揺れて、入浴剤のミルクの香りが漂う。優しい、いい匂いだ。彼女のあまりにもぎこちない反応に、忍足はくすりと笑った。
「……何でそんなガチガチなん?」
穏やかに笑いながら、忍足は郁の片手を取った。右手同士を指先まで絡める恋人つなぎ。
「ッ! 先輩」
指を絡められてびっくりしたのか、郁は非難がましい声で忍足を呼ぶ。
「ちゃんとリラックスし? 別に何もせぇへんし」
「……っ!」
妙に意識して自分だけ緊張するというのも、やらしいことを考えてますと白状しているようで、逆に気恥ずかしい。ずっと腰に回されたままの忍足の左腕を気にしながらも、郁は言われた通りに力を抜いた。
「ん……」
軽く息を吐きながら、バスタブの中で脚を伸ばす。
「……そ、エエ子やで」
右手の指を絡めながら、忍足は機嫌良く笑う。上下する喉の気配と息遣いをすぐ後ろで感じて、郁の胸は高鳴った。
「先輩……」
まだ緊張は完全には解れていないけど、郁はおずおずと、後ろにいる忍足にもたれかかった。タオルを巻いた上半身を忍足に預けたら、そのまま後ろから抱きしめられた。
郁の腰に回されている忍足の左腕に力が込められ、恋人繋ぎをしている右手も、そのまま郁の胸の上に回される。忍足の裸の身体がさらに近づく。ほとんど密着していると言ってもいい。
けれど、忍足に抱きしめられるのが大好きな郁は、忍足を近くに感じて幸せな気持ちになる。少し熱いくらいの湯加減も、真冬の今は逆に丁度いいくらいで、ぽかぽかと気持ちいい。
「きもちいいです……」
ようやく気持ちが落ち着いてきた。身体から力が抜けてくる。やっぱりお風呂っていいな。彼女がそんなことを思った、そのとき。
「……ん、俺はまだまだやな」
「え? ……きゃっ!」
郁の腰にゆるく回されていた忍足の腕が、急に動いた。ちゃぷんと水面が揺れて、お湯の中で郁のタオルが外される。
「ッ、先輩……!」
「……ちょっとだけど、俺も気持ち良うなってきたわ」
裸の郁の胸を、忍足は左手でふにふにと揉む。
「……っ!」
浴槽の中で、しっかりと捕らえるように抱えられていて、郁は抵抗できない。二人が浸かるには狭いその場所では身動きもままならず、されるがままになってしまう。郁の二つの膨らみを、忍足は片手で可愛がる。
「……っ あ……んっ」
郁の唇からいやらしい声が漏れる。強引な愛撫に、けれど素直な身体は感じてしまうのだ。もたらされる心地よさには抗えない。両胸の先端を同時に刺激されて、郁は喉を反らせてのけぞった。
「や…… んッ」
僅かに身体を震わせる。
「……むっちゃかわええで?」
性感を煽るように忍足に囁かれた。熱い吐息が耳元にかかる。
「っ、先輩……」
「……郁が感じとる顔が、見れへんのが残念やわ」
「も……」
「……鏡がコッチについとれば良かったんやけどな」
浴槽の外の壁には鏡が張られていた。曇り止めを施されているらしいその大きな鏡は、無人の洗い場をくっきりと映し出している。
「先輩のバカ…… ヘンタイ」
忍足に両胸を愛されながら、郁は涙目で彼を非難する。
「ヘンタイやあらへんで、オトコなら普通それくらい思うで」
「そう…… なの……?」
「せやで」
無知で純粋な彼女に、忍足は適当なことを吹き込む。他のオトコのことなんて知るわけないけど、そういうシチュエーションの『作品』はよくあるし、この際そういうことにしてしまう。
「…………」
郁は黙り込む。どうやら納得してくれたようだ。彼女の素直さに感謝しながら、忍足は郁を抱きしめる。充血した下腹部を、彼女の身体に押しつけた。案の定、郁はびくりと身体を震わせた。
「……何もしないって言ったのに」
「……郁はホンマにかわええな。あんなん信じとったん?」
「〜っ!」
からかうように笑われて、郁は悔しさに唇を噛む。やっぱり男の子の『絶対に何もしない』は絶対に嘘なんだ。今さらそんなことを思う。めっちゃ術中にはまってる。自分を抱きしめる忍足の右腕にさらに力がこめられて。ずっと胸を可愛がっていた左手が、今度は下腹部に伸びてきた。
「……ッ」
郁が脚を閉じる間もなく、忍足の手はあっさりと彼女のその場所に沿わされた。
「も…… やだぁ」
「嫌やあらへんやろ。ココこんなにしとるくせに」
お湯の中でもわかる。その場所は入り口付近まで、郁の体液で濡れていた。お湯とは明らかに違うそのぬめりに、忍足は口の端を上げた。彼女が感じてくれているのが嬉しい。
お湯が入ってしまわないように気をつけながら、忍足は郁のその場所を弄る。指先で中を弄ってやりながら、上部の突起も刺激して、彼女をもっとよくしてやる。
「……っ」
郁の視界がぼやけ始める。お風呂のせいなのか忍足のせいなのか、もうわからない。くらくらとした目眩を覚えて、郁は抵抗する気力をなくしてしまう。身体から力が抜けて、自分から脚を広げてしまった。その仕草に応えるように、忍足は自分の指を彼女の奥まで差し入れる。
「あっ……」
嬉しそうな声を漏らして、郁は身体を仰け反らせた。忍足は口角を上げた。性感の虜になりつつある可愛い恋人に、言葉責めを仕掛けていく。
「……俺より、郁の方がずっとヘンタイさんやな」
まずは、ささやかな意趣返し。けれど、反論は返ってこなかった。そこに指を入れられて、内側を愛されるのがよほど気持ちいいのか、郁はただ甘い喘ぎを漏らしながら、忍足の愛撫を受け入れていた。
忍足は強引に郁を自分の方に向かせると、そのまま口づけた。すぐに舌を入れて、彼女のそれを絡め取る。口内を丹念に探ってやりながら、忍足は郁の脚の間へさらなる愛撫を施していく。指を足して内側をさらに拡げてやり、彼女の身体の準備を整えていく。
しっかりと彼女の中を拡げてやってから。唇を離して、忍足は郁を元の姿勢に戻した。改めて、華奢な身体を抱え直す。さらに指をもう一本、彼女のその場所に沈めていく。充分に拡げられて潤ったその場所は、追加されたその指をあっさりと呑み込んだ。
「ん……っ」
「痛ない?」
既に意識を混濁させている様子の、素直な恋人はこくりと頷いた。忍足は喉を鳴らして笑うと、切れ長の瞳を細めた。
「ほんなら、もっと良くしたるわ」