*Shoet DreamU(更新中)*

□【忍足】侑士先輩と愛言葉しりとりをする話
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「先輩っ! しりとりしませんか?」

 愛しの彼女に急にそんなことを言われて、忍足は顔を上げた。

「……どしたん、急に」

 先ほどまで自分の向かいに座って雑誌を見ていた彼女……郁は、それを持ったまま自分の隣にやってくる。寄り添うようにくっついてきて、そのページを見せてきた。

「…………愛言葉しりとり?」

『絶対盛り上がるパーティーゲーム! 甘い言葉だけでしりとりしちゃお!』

 能天気な雑誌のリードを眺めつつ、忍足は思う。

(つか、コレ完全に合コンゲームやろ……)

 最近はパーティゲームなんて言い方をするのか。なんて関係ないところに感心していたら、よほどしたくて仕方がないのか、郁が甘えるようにせがんできた。

「楽しそうじゃないですか! 先輩やりましょうよっ!」

 相変わらずの我儘ぶり。でも、確かにこのゲームは楽しそうだ。

「仕方あらへんなぁ、お前は」

 忍足は読んでいた小説を机の上に置いて、改めてソファーに座り直した。



 郁もまた雑誌を机の上に置いて、忍足の隣にぴったりとくっつく。忍足を見上げて、最初の言葉を口にした。

「それじゃあ私からいきますね! 『先輩大好き』」

 大好きは郁の口癖だ。可愛い彼女のワンパターンぶりに呆れつつも、忍足は次の言葉を口にする。

「……『今日もかわええで』」

 ソファーの背もたれの後ろから手を回して、郁の肩を抱き寄せた。抱き寄せられたのが嬉しかったのか、郁ははにかんだ笑みを浮かべて忍足の肩に頭をもたせかける。サラサラとした綺麗な髪から、フローラルのコロンが香る。

「……『電話してもいい?』」

「『いいに決まっとるやろ』」

「『ロミジュリみたいな恋がしたいな』」

「……俺はイヤやで、悲恋やん」

「しりとりですからっ! 次センパイ『な』ですよっ」

「ハイハイ…… 『何よりもお前が大切や』」

 郁の肩を抱いていた手で、忍足は彼女の頭を撫でる。

「……嬉しいです」

 そう言って、郁は忍足に抱きつく。横からだからしがみつくほどではないけれど、忍足の身体にギュッと顔を押しつける。そのまま次の言葉を口にした。

「『優しいとこも大好き』」

 本日二回目の大好きに苦笑しつつも、彼女なりの精一杯の愛情表現なんだと受け止めて、忍足も次の言葉を探した。いいフレーズをすぐに見つけて、彼女に囁く。

「『今日も一緒におれてホンマに嬉しい』」

 これも、紛れもない自分の本心だ。東京と大阪という遠距離恋愛は辛いことも多いけど、だからこそ一緒にいられる幸せに改めて感謝できる。高校時代に東京でご近所だった時には、わからなかった気持ちだ。

「……『いつも一緒にいたいな』」

 忍足の胸に顔を埋めたまま、郁は甘えるように言う。

「『何があっても離さへんよ』」

 しりとりだということを忘れそうになりながらも、忍足は彼女を抱きしめ返す。すると、郁がまた自分の方を見上げてきた。

「……終わりませんね」

「せやなぁ」

 至近距離で目が合って、不意に会話が途切れる。そうなったら、することなんてひとつだけ。どちらからともなく、二人は唇を重ねていた。長くも短くもない、触れ合うだけの優しいキス。

「……『よそ見しないでね?』」

「『ネコより俺の方が好きやろ?』」

 唇を離して、けれど見つめ合ったまま、二人はしりとりの続きを囁き合う。しかし、忍足のお茶目な台詞に郁はつい吹き出してしまう。

「……なんですかそれ」

 今はあの太っちょの彼はいないのに。ふと、カーテンの隙間からのぞく美しい月に気がついて、郁は次の言葉を口にした。

「『ロマンチックな夜ですね』」

「……『熱帯夜にしたるわ』」

「『私どうなっちゃうのかな』」

「『何も心配あらへんで。先輩に任しとき』」

「……『今日は大変なことになりそうです』」

 そこまで言って、二人はまた無言で見つめ合った。月の綺麗な秋の夜。明日も休日で、郁は今日もここ、忍足の部屋に泊まる予定だった。

「――『スマン、我慢できんくなったわ』」

 眼鏡を外して、忍足はテーブルの上に置く。実は抱きつかれたあたりから、正直な下腹部は充血し始めていた。今履いているのはジーパンだから彼女には気づかれてないと思うけど。

「『私も……』」

 しりとりだからなのか、郁は意外にも恥ずかしがらずに、ノリのいい台詞を返してきた。

「『もうここでええ?』」

「『え〜 ベッドがいいです』」

「『素直なエエ子には、たくさんご褒美やらんとな』」

 しりとりを続けつつも、忍足は彼女から確約を引き出す。そしていよいよ、忍足が彼女をお姫様抱っこで抱え上げようとした、そのとき。

「――ナ〜〜〜〜ゴ」

 窓の外から野太い声が聞こえた。

「ミィくんっ!」

 その声を聞いた瞬間。郁は表情を輝かせ、忍足の腕の中から飛び出した。パタパタと窓辺に駆けてゆく。忍足の腕はむなしく空を切る。

「……オカシイやろ」

 忍足の繊細な男心はいざ知らず。郁は窓辺で楽しそうに、食欲の秋でますます巨大化した愛らしい彼を迎え入れている。開けられた窓から冷たい外気が入り込み、忍足の盛り上がった気持ちと下腹部を容赦なくしぼませていく。

「……ソコは空気読むトコやろ」

 悔しさのあまり心の声が外に出ていることに、忍足は気がつかない。

「……ネコより俺の方が好きって」

 そこまで呟いて、ふと思い出した。

「…………言うてへんかったわ、そういえば」

ふてぶてしいネコの鳴き声が、忍足の部屋に響いた。
 

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