*Shoet DreamU(更新中)*
□【謙也】たまにはのんびり2
1ページ/1ページ
◆番外編
「……ッ、郁…… 好きや」
「謙也くん……」
「……もっと、ちゃんと俺につかまり?」
お願いは形だけのものだ。郁からの返事を待たずに、謙也は彼女の両脚を乱暴につかんで力任せに下方に押した。彼女の両膝をシーツに押しつけるような格好だ。
両脚を謙也の腰にゆるく絡めた状態でそうされて、郁の脚の間のその場所はさらに上の方を向く。同時に充血しきった謙也のものが、郁の体内のより深くに押し込まれ。彼女はあえかな声を漏らして眉を寄せた。
「ッ……」
夢中で快楽を追求する彼に、きつい姿勢を無理に取らされているのだ。辛くないはずがない。
力任せにシーツに押しつけられている脚にも、張り詰めた謙也のものを差し入れられているその場所にも、確かな痛みを感じる。
郁はそれから気を散らそうと、深い息を吐いた。身体をなるべく弛緩させ、少しでも負担を減らすために、謙也の腰に両脚をしっかりと絡めて、彼と繋がりあっているその場所を限界まで上に向ける。
しかし、それは謙也自身をもっと欲しがる態度そのもので。
「……郁ッ!」
いっそう興奮した謙也は、郁の華奢な身体にさらに体重をかけてくる。その瞬間、郁の内側に入れられている謙也のものが彼女の最奥まで到達し、郁は甘い眩暈を覚えた。
視界が一時だけ暗転し、謙也自身を包み込んでいる郁のそこがきゅっと締まり、水のような体液を溢れさせる。
「あ……ッ」
僅かに開かれた唇から漏れる甘く掠れた喘ぎには、確かな歓喜が滲んでいた。謙也によってもたらされる刺激を喜ぶその反応は、誤魔化せるはずもなく、つぶさに彼に伝わってしまう。
「ッ、郁……!」
そんな彼女に焚きつけられて。謙也は今までも充分すぎるほどだった抜き差しのペースを、さらに激しく早くしてゆく。
身体の内側を突き上げられるような独特の圧迫感と、最も感じてしまう粘膜を勢いよく擦りあげられる快感が同時に押し寄せて、郁は甘やかな悲鳴を上げた。
愛しい彼とそそり立つ彼自身に、自分の身体を好きにされるこのときは、郁のその場所とその心に、最高の心地よさをもたらしてくれる。
彼に自分の全てを征服される被虐の快楽に、郁は浸った。謙也が力任せに郁のその場所に腰を打ち付けるたびに、郁は反射的に甲高い喘ぎを漏らし、謙也にしがみつく。
興奮しきった謙也はさらにペースを上げようと、郁の身体を自分の全体重をかけながら抑え込んだ。
痛みに眉を寄せる郁に構わず、謙也は自分自身の快楽だけを容赦なく追求し、郁の身体の全てを使って、自分自身を追い上げてゆく。
「……ッ、は……」
その後、謙也がようやく郁の内側で果てたとき。彼のあまりにも荒々しい行為に、郁は瞳に涙を浮かべ、もう疲労困憊というありさまだった。
そして。ついに堪忍袋の緒が切れた郁は、半泣きで謙也を罵っていたのだった。
「もうっ、謙也くんのバカ! いつもいつもひどいよ!」
「ッ、郁! ほんまにすまんって!」
「もう、いつもそうやって謝るくせに全然改善されない!」
「やっ、もう、次こそは思うんやけど、つい」
「ついじゃないよ! ひどいよバカバカっ!」
どうしようもない内容での痴話喧嘩。まさに読んで字のごとくだ。まだ行為を終えたばかり。二人は一糸まとわぬ姿で同じベッドの中にいた。
興奮して涙ぐむ愛しい彼女を、謙也は懸命に宥める。なけなしの理性を取り戻した今は、ただひたすらにご機嫌取り。
大事な恋人なのだ。それこそ嫌われたら生きていけないほどの。なのにどうして自分の行動を直せないのかといえば、それは如何ともしがたい性格だからだ。
堪え性がないのは謙也の元来の人格で、これはなかなか矯正できない。
「……だってなんかもう痛いし、苦しいし!」
「ほんまにごめんて……!」
自分の腕の中で拗ねる恋人の髪を撫でてやりつつも、しかし謙也は不思議に思う。
(でも、激しいときのが反応ええで……?)
自分に限界まで脚を広げられながら抜き差しされて、うっとりと喘ぐ郁の姿を謙也は回想する。いつも全力で体重をかけてしまって怒られるけど、それでも郁はいつだって心地よさそうにしていた。
確かに眉を寄せて苦しそうにしてはいたけど、繋がりあっているそこは蕩けそうなほどに熱く潤んで、極上の快楽を自分に返してくれていた。
それに応えるように掻き抱いてやると、郁のそこはさらに潤って、充血しきった謙也自身をきゅうきゅうと締めつけてきた。
(あれはどう考えても『もっとして』ゆうことやろ……)
口でしてもらっているときも同様だった。喉の奥まで自分のものを咥えているときの、頬を紅潮させて瞳を潤ませている郁のあの表情も、興奮しきっているといっても過言ではなく。
しかし、冷静になって考えなくとも。
(……でも、いくら良さそうにしとるゆうても、やっぱやりすぎとるよな……)
性の不一致は、愛し合う二人にとっては重大事項だ。正当な別れの理由にすらなりうる。そのままの成り行きで彼女を失うことを想像してしまい、謙也は郁を抱きしめる腕に反射的に力を込めた。
(ッ、そんなん嫌やわ……!)
込み上げる寂しさを誤魔化すように、郁の頭を優しく撫でる。けれど、その手つきはまるで子供をあやすもの。
実はこれでも年下と接することの多いお兄ちゃん。なおかつ女性経験が豊富なわけではない謙也が、このような態度を取ってしまうのは、ある意味仕方がないことだった。
「ゴメンな、郁……。ほんまにゴメン」
けれど、つい先ほど彼女を失うことを想像してしまったせいか、今回の謙也の謝罪は、これまでのものとは違ってかなりの真剣味を帯びていた。
「ッ、べ、べつに……」
それにほだされてしまった郁は、しどろもどろになる。にわかに頬を染めてあたふたとし始めた。
「……そんなに気にしてないから、謙也くんも気にしなくていいよ」
ぶっきらぼうな台詞は、もちろんただの照れ隠しだ。彼女の愛情表現と優しさに、素直な謙也は感動する。
「ッ、郁……!」
まことにちょろいカップルである。
郁の気遣いによってすっかり元気を取り戻した謙也は改めて、腕の中の彼女を見おろした。
愛し合った直後だからか、郁の真っ白な素肌はほんのりと赤みを帯びていた。部屋の照明もついていたから、謙也からは郁の豊かな胸の膨らみに、色づいて尖ったバストトップがよく見えた。
行為を終えて、一糸まとわぬ姿の恋人と同じベッドの中にいるというシチュエーションで、そんなものが視界に入ってしまえば、注意を引かれてしまうのは当然だ。謙也は無意識に郁の胸元を見つめてしまう。
白く柔らかな二つの膨らみとその突端。つい先ほどまで自分がむしゃぶりついていた……。しかし、じっと見つめていたら郁に気づかれてしまった。
「も、ちょっと謙也くん、さっきからどこ見てるの!」
「ッ、しゃあないやろ……!」
「仕方なくないよ! も、アホ! ヘンタイ!」
お仕置きとばかりに、謙也は郁に頬をきゅっとつねられる。
そして、再びきゃあきゃあと騒いだあと。謙也と郁は二人仲良く抱き合って、同じベッドで眠りについた。
今日はスパデートからのホテルステイ。ツインの部屋をとったからベッドは二台あったけど、そこはこの二人のこと、シーツが乱れるのは一台だけだ。
***
そして、翌朝。カーテンの隙間から差し込む光と、枕元のスマホのアラームで、郁は目を覚ました。寝起きの気怠さを我慢しながら、郁はベッドの中から手を伸ばしてアラームを止める。
彼女はそのまま、自分のすぐ隣の謙也に視線をやった。チェックアウトまでにはだいぶ時間があったからか、謙也はまだ眠っていた。
自分と同じベッドで眠る裸の恋人に、郁は昨夜の出来事を思い出して頬を染める。
お付き合いを始めてそれなりに時間が経っていて、もう何度も二人一緒の朝を迎えているけれど、やはりまだ気恥ずかしくなってしまう。すると。
「ん、郁……? 起きたん……?」
郁の気配を感じ取ったのか、謙也が起き出してきた。
「謙也くん」
「……早いな。今、何時なん?」
「……九時だから早くないよ。でも、チェックアウトまでまだ時間あるし、寝てていいよ」
未だ眠そうにしている謙也に、郁はそう声を掛けるが。謙也はムニャムニャ言いながらも、彼女をベッドの中に引き込もうとしてきた。
「郁も、あと少し……」
目は覚めているようだけど、まだ起きたくはないらしい。謙也は郁を離そうとはせず、また二人で眠ろうとする。
けれど、そんな我儘な彼を郁は改めて愛しく思った。大切な恋人だ。それは郁にとっても同じこと。彼を失うなんて考えられない。
「……もう、あとちょっとだけだよ」
甘く優しい声で囁きかけて、郁は再びベッドにもぐり込む。謙也に抱きついて目を閉じた。彼の肌の温もりが心地いい。
チェックアウトは正午だ。こんなこともあろうかと、レイトチェックアウトのプランで申し込んでいて正解だった。
たまにはのんびり一緒にお昼まで眠りたい。謙也とだったら、こんな時間の過ごし方も素敵に思える。
彼の腕の中で逞しい裸の胸に顔を埋めながら、郁は幸福な温もりに包まれて、ひとときの間まどろんだ。