オリジナル夢
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重い瞼を開く、視界がなんだかぼんやりしていてそれと同じようにキイの思考も白い靄が立ち込めていた。
うっ、と唸りながらゆっくりと体を起こすと、ズキンっと頭に電流の走ったような痛みがした。実際電気は流れたわけじゃないけどそんなイメージが浮かんだ。
少しずつ、動き出す時間
ここが車の中だということが分かって、キイは微かに覚醒した意識の中で違和感を覚えた。
(ここ...どこ?)
全く見覚えが無い。車の後部座席だということは分かる、内装、座席のカバーもキイの見たことの無い、少し高級な革のような素材だ。
そして色の入った窓の外を見ると、キイの生まれ育って慣れ親しんできた町並みとは程遠い景色だった。薄暗い空と明るい電飾が多くの店を縁取る。
思わず自分の顔に手をやる。
そして、これはきっと夢なんだ、夢の続きなんだと心の中で繰り返しつぶやいた。
もう一度目をつぶれば元の懐かしい故郷の町並みだ...いくら目を閉じても景色は変わる気配は無い。
そうやって、数分間窓の流れていく景色を見つめながら、脳が完全にクリアーになったのが分かった。
(何してるんだ、自分!てか、ここはどこ?で、どうゆう状況!?)
「大丈夫か?」
不意に運転席から声をかけられて、そこを注視する。
グレーの高級そうなスーツと、キッチリとボマードで固められた髪からは、何処かの企業の会社員というイメージを受ける。
(てか、誰!?)
サラリーマンというよりは、サラリーマンの役を演じている「俳優」といった方がしっくりとくる。ハンドルを握る横顔は端整だ。
でも、見覚えがある。
何処か懐かしいような、小さい頃を思い出した時の気分だ。曖昧で微かな記憶、だけど何故か暖かな。
(って、見とれてる場合じゃない。)
結局誰なのかが分からない。キイは無意識の内に首を傾げていた。一体何があってこの状況になったのだろうか。
(...まさか、と思うけど?)
(誘拐...された?)
運転席の男の顔から表情は読み取れない。
とりあえず...何か聞こう。思い切ってキイは咽から声を絞り出した。
「あの、」
声を出して始めて気付いた。咽がカラカラだ。運転席の男は「どうした」といった風に、キイの瞳を覗き込んだ。
「あの...自販機とか無いですか?」
すると、男は吹き出したかと思うとクスクス笑い始めた。
「悪いけど、あんまり無いんだよね。コンビニでもいい?」
と言ったかと思うと、ハンドルを勢いよくきってコンビニらしき駐車場に入った。
「さあ」
とドアを外から開けられて、戸惑いながらも地面に足をつける。
そして、男の後から早足に店に入ると、飲料水の冷蔵庫の前に行く。
(ラベル...みんな英語?)
右も左も、英語だらけだ。
どうしてこんな場所のいるのだろう、そんな不安だけが心の中に蔓延している。
取り敢えずミネラルウォーターを手に取ると男がレジでお金を払った。
車に乗って、キイは一気に水を飲み干した。あまりに喉が渇いていた為だ。
咽が渇いていてそれどころでなかった。これで落ち着いて話せる。
そして一息ついてから口を開いた。
「えっと...」
「覚えて無い?俺のこと。キイは小さかったからな...圭嗣(ケイシ)だよ」
ケイシ
その名前を反復させる...ケイ兄ちゃん?
確かにキイは4〜5歳の頃、歳の離れたお兄ちゃんと遊んだ記憶があった。名前や顔の記憶ははっきりとはしていないが、写真は残っている。
キイの遠い親戚なんだと、母や祖母から聞いた記憶がある。
なるほど、見覚えがあるはずだ。
「え...ケイ兄ちゃん!?」
「久しぶり、キイ。で、キイはこの状況をまるで分かってないよね...まさか何にも聞かされてない?」
キイは何も言えず、ただ何度も頷いた。
「あの、どっから聞いたらいいですか?」
「うん、どっから説明しよう...」
ちょっと困ったように圭嗣は腕を組む。
キイもどうしたらいいか分からず、何も考えずに口を開いた。
「ここ、日本じゃないですよね?」
圭嗣は更に困ったように、そして悪戯っぽく笑った。
「...日本では、ないよ」