〜物置部屋〜

□チョコホリック
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『チョコホリック』〜remember


和臣の通っていた大学では、夏生早瀬という人物は有名人だった。
端正な顔立ちと可愛いと形容できる容姿。人懐っこい性格。
男女問わず人気のある、無意識に人を寄せつける素質を持った人だった。
たまたま和臣が入ったサークルにいたのが早瀬。
早瀬は後輩の面倒見もよく、誰とでもよく話し、打ち解けるのが早かった。
早瀬はどこに行っても憧れと注目の的だった。

「おーい!冬元ぉ!」
背後から呼ばれて和臣が振り返る。
「夏生先輩」
止まった和臣に駆け寄る早瀬。
キラキラして眩しい、と和臣は密かに思う。
「お前歩くの速すぎ。なに?急いでた?」
「え、そうですか?すみません、特に急いでたわけじゃ…。なんですか?」
「お前さ、この前三上教授の講義受けたんだろ?さっき杉浦に聞いたんだけど」
「はい、受けましたよ」
「マジで!?俺も受けるつもりだったんだけど、あれって定員制だったろ?もう定員締め切ってて。ノート見せてくんない?」
「いいですよ。コピーしましょうか?」
「助かるよ。冬元のノートは綺麗に取ってて見やすいからなぁ。丁寧な性格がノートにまで出てるっつーか」
「誉めたって何も出ませんよ」
「ははっ、それは残念」
そう言ってから、ふと思いとどまって和臣はカバンを漁る。
「ん?なに?」
「確かこのあたりに…あった」
和臣がカバンから取り出したのは、チロルチョコ二つ。
それを見て早瀬の顔が輝いた。
「くれんの!?」
「いいですよ、貰い物ですけど。僕、コーヒーヌガー苦手で」
「めっちゃ嬉しい!!あんがと!!…あれ?俺がチョコ好きなの知ってた?」
和臣はわざとらしく肩を竦める。
「有名ですよ、先輩の『チョコホリック』。はじめ何のことかわからなかったんですが、チョコレート中毒って意味なんですよね?」
「らしいねー。誰が言い出したのかわかんないけど。言われても仕方ないかなぁ。中毒とか言われるくらいチョコレートばっか食べてるし」
早瀬はもらったチョコの包みを揚々と取り去り、口に運ぶ。
「チョコレートばっかって、チョコレートのみですか?」
「ううん。チョコレート加工品とかチョコレート味のものも好き。クッキーとかアイスとかね。つまりチョコレート関係なら何でもアリ」
「ふーん…糖尿病にまっしぐら、ですね」
「くくく、言うねぇ」
「コピーはいつまでに?」
「お前が暇な時でいいよ。チョコまで貰って悪いな」
あっという間に食べ終わったらしく、二つ目のチョコを口に放る早瀬。
ニッと笑って、和臣の顔を覗き込むように身体を屈める。
「お前、ホントいいやつだね!」
そう言って笑った早瀬に、同性である和臣でも可愛いと思った。
早瀬のカリスマ性を目の当たりにして、人気の高さに納得する。
そして…なんで彼女がいないのだろうと疑問に感じた。
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