〜物置部屋〜

□チョコホリック
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「ダメ…!何も呼ばないで!!」
「なに言って…っ、…え?」
倒れている人の顔を初めて見る。
心臓が、高鳴った。
「―――夏生…先輩…?」
「あ…?」


「はい、どうぞ」
「ん…ありがと」
お湯で濡らした温かいのタオルを手渡す。
傷だらけで救急車を呼ぶのも断り、自宅も遠いということで、自分のマンションが近いということもあり、和臣は自宅に連れて帰ってきた。
「あー…ヤベ、気持ちいいな」
タオルを顔に押し当てながら、彼が呟いた。
内心、和臣は気が気じゃない。
動揺を見せないように平静を装いながら救急箱を探す。
「マジ助かったよ」
タオルで傷を拭き終わって、ニパッと笑った。
「まさか冬元が近くにいるなんてなぁ。大学卒業以来だっけ?久しぶり」
そう言って傷だらけの顔で笑う彼は、夏生早瀬。
和臣の、大学時代の先輩だ。
救急箱を持って彼の横に腰を下ろす。
「僕だって会えると思ってませんでしたよ」
「卒業してから…四年くらい?もうすぐ五年になるもんな。お前スーツなんて着てるから、すぐには分かんなかったよ。よく俺って分かったね?」
和臣は笑って、答えを誤魔化した。
気づかないはずがない。
ずっとずっと、街中で捜していた人…。

忘れられない、好きな人。
和臣にとってその人こそが、夏生早瀬なのだから…―――

和臣はドキドキとする鼓動を感じながら、口を開く。
「…今日、泊まりますか?」
「え、いいの!?」
「僕は明日休みですから、先輩がよければ」
「そうなの!?うわー、助かる!!ありがと!!」
輝かんばかりの笑顔の早瀬に、和臣は少しホッとした。
「じゃあお風呂入っていいですよ。さっきお湯溜めたので」
「俺が先?」
「その間に布団の用意しますし。あ、お腹空いてるなら何か作りますよ」
そう言いながら早瀬に背を向けた時。
トンッ、と和臣の背中に重みがかかる。
和臣に、一気に緊張が走った。
「…先輩?」
「聞かないの?さっきの…」
不安げな早瀬の声。
声が上擦らないように意識しながら、和臣は話す。
「大人には大人の事情がありますから。話したくないことだったら悪いじゃないですか」
和臣の言葉に早瀬が小さく笑った。
「お前は学生時代からそんなだったよね。達観してるっていうか、俺より全然大人だった」
「そんなこと…」
「あの時も、さ」
和臣の台詞を遮って早瀬が言った『あの時』という単語に、和臣はギクリとする。
「見てたんだろ?お前、何も言わなかったから、それに甘えてたけど。軽蔑されんのかなって…思ってたのに、お前は態度変えなくて。実は、すっげー嬉しかった」
そんな早瀬の言葉に、和臣は『あの時』のことが脳裏に蘇った。
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