〜物置部屋〜

□チョコホリック
3ページ/26ページ

『チョコホリック』〜return



学生時代に好きだった人―――いつの間にかその人の面影を、人ごみの中捜す自分がいる。


「―――和臣?」
呼ばれた自分の名前に、ハッと我に返る。
苦笑しながら、冬元和臣は相手に向き直った。
「ごめん。なに?」
「なにって…」と言いながら目の前の彼女は呆れた溜め息をつく。
「和臣が人間観察好きなのは知ってるけどさ、彼女を目の前にしていつまでも外を見てるってどうなの」
「あーぁ…いや、ホントごめん」
謝りながら和臣は複雑な気持ちでいた。
人間観察が好き、というのは建て前。
いつも外を眺めているのは、ある人を捜しているから。
そんなことを目の前の恋人に言えば、彼女を傷つけることになるのは目に見えてる。
そもそも、忘れられない人がいるのに、雰囲気が似てるという理由で違う誰かと付き合っていること自体、理解はしてもらえないことだろう。
だから、誰と付き合おうと長続きはしない。
「和臣さぁ…なんか最近ボーっとする時間長くなったよね。私といる時」
「…そう?」
彼女が言うならそうなんだろう。
それは今までの彼女からも言われていた台詞。
心が冷静になって、『この人は違う』と思いだした時の、無意識な決まり事。
彼女も外に視線をやる。冷めた紅茶に口をつけながら。
そろそろ、この人とも終わりだな…和臣は悟った。
その後、曖昧な会話をして、彼女を駅まで送ってから、自分も家路を歩きながら考える。
今まで自分から別れを切り出したことはない。そうなる前に相手から言われてきた。
というか、きっとその時を待ちわびているのだろう。
『誰か』に重ねて付き合いだして、そして錯覚だったと、相手からの別れの言葉を待つ。
まったく…最低な人間だ。



もう少しで我が家というところで、人の声と鈍い音がしている。
訝しげに声のするほうをそろりと覗くと、狭い路地で誰かが倒れていた。
倒れている人の横には、自分のようなスーツ姿の男性がいる。
ただならぬ空気に、人命の危うさを感じてゾッとした。
「何やってるんだ!!?」
気付いた時にはそう叫んでいた。
和臣の声に、明らかに動揺するスーツ姿の男性。
脱兎のごとく、その場から逃げ去った。
和臣は倒れている人の傍に駆け寄って、救急車を呼ばねばと携帯を手にする。
その手を、いきなり倒れている人から掴まれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ