ハイキュー短編

□お支払いは俺の心で
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いつもより部活が早く終わり、一旦教室に戻ろうと階段を登っていたら彼女がいた。


「おーい!名無しさんちゃん!」

「ん?…げ…」

「ちょっと〜、げってひどいんじゃない?」

「そうですかね?私は全く酷いと思いませんが?被害妄想もいい加減にしてくださいそして今日もお元気そうで何よりですねそれではさようならほどほどにお気をつけてお帰りください」

「え、ちょ、ま、ストップゥ!!」


俺を見つけるなり一気にブレスなしでまくし立て、ちゃっちゃと帰ろうとする名無しさんちゃんを急いで引き止めた。


「なんなんですか、触らないでください汚らわしい。わいせつ行為として訴えますよ」

「あれぇ!?俺そんなに気に触るようなことしたかな!?」

「当たり前じゃないですか、何故なら私の視界に及川先輩というゴミ以下の存在がうつるだけでも眼球を丁寧に洗って除菌したいくらいなのに」


この言葉を言ってる最中にも、名無しさんちゃんはギュッと目をつぶり頑なに俺を見ようとはしない。
岩ちゃんの俺に対する扱いもそうとうだが、名無しさんちゃんは本気で嫌がってるように見えるぶん威力は岩ちゃんと比べるとかなりのものだ。

何度目かになる質問をまた名無しさんちゃんにしてみた。


「なんで名無しさんちゃんはそんなに俺のことが嫌いなのかな?」

「またその質問ですか?そろそろウザイですよ。まぁウザイのはいつものことですが。何度も言いますが私が貴方のことが嫌いな理由はただ一つです。チャラチャラしてるから」


うん、相変わらずの返答だね。そして次に続く言葉が…


「もっと「『もっと岩泉先輩を見習ってください』…でしょ?」

「…....」


ほーら、今日一番の嫌そうな顔。
本当面白いなぁ、この子をからかうのは。
でも、俺の前で岩ちゃんの名前が出てくるのは面白くないなぁ。


「そうだ、今日一緒に帰ろっか!」

「はぁ??なんで私があんたと、」

「駅前のケーキ屋でなんか奢ってあげるよ?」

「それなら話は別です」


さっきまで死んでいた目が一気に光を灯し、あれだけ俺の体と触れることを嫌がっていた彼女が今は自ら腕を掴み引っ張っている。

教室に行こうかと思っていたのだが、名無しさんちゃんがあまりに嬉しそうにしていたから諦めることにした。



*****



カランコロンと軽快な音を鳴らしながらドアを開けると、目の前にはショーウィンドウに所狭しと並べられた色とりどりのケーキが広がっていた。

隣にいる名無しさんちゃんは目をすごい輝かせている。
こういう姿をみると、いくら毒舌な彼女もちゃんと女の子なんだなぁと思い、ついつい顔が綻んでしまう。


「名無しさんちゃんは決まった?」

「選んでるときに話しかけないで下さい。せっかくのケーキが不味そうに見えるじゃないですか」

「すいませんでした」


いくら幸せそうでも、口を開けば普段通りでした。


「よし、決めた。すいませーん。苺のタルトとかぼちゃモンブランください」

「え!?二つ!?」

「何か問題が?私は仕方なく及川先輩と帰ってあげてるんですよ。このくらい当然ですよね?」

「は、ははは....ソウダネ」







あの後俺は無難にショートケーキを選び、奥の席の方へと座った。


「はぁ〜〜おいし....」


名無しさんちゃんはひょいひょいとフォークにケーキを乗せて口の中に運ぶ。口にふくむたびにいちいちリアクションをしていて見てる側としてはかなり面白い。

それにしても女子高生ってもっとカロリーとかに気を使ってケーキとかそんな食べないイメージだったけど....別腹ってやつかな?


「本当幸せそうだね」

「当たり前じゃないですか!....及川先輩今日はありがとうございます!」


満面の笑みで名無しさんちゃんは言った。
勿論こんな幸せそうな表情初めて見るわけだが、なんというか....かなり、堪える。やばい。

今まで俺に向けられる表情なんて嫌悪感の丸出しな表情や無表情ばかり。笑っていたとしても嘲笑いのほうだ。
だけど今は違う。本当の、心からの、幸せそうな笑顔。
それがケーキという助けを貰って俺に向けれれてるとしても、あまりにも刺激が強過ぎる。






こんなことを言う柄じゃないけど、

君の笑顔は、ケーキ2つ分の代金じゃ全然足りない。



end

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