黒猫と、

□はじまりの夜
1ページ/1ページ






けだるさにまぶたが重くなるけど、眠りに入るのに抵抗して瞬きを繰り返した。
俯せになった私の肩を、熱い手が滑る。
いつもは冷たいのに、と思いながら身体を少しだけ捻って視線を向けると、暗闇の中でも目が合ったのがわかる。

「優月」
『ん?』
「疲れたなら、無理しないで寝たらいいのに」

彼の手が肩から下がって脇腹に触れた。

『本心?あちこち触って、寝かせる気ないのかと思った』
「そこまでがっついてない」

微かに寄った眉間のしわにくすくすと笑ってしまうと、更にしわが深くなった。
と、急に真顔になって手を離す。

「よかったの?」
『ん?』
「僕とこんなことして」
『今更そんなこと聞かないでよ』

彼は珍しく困惑していたようだ。

『……確かにね、罪悪感はあるの。雲雀くん、まだ高校生でしょ?だから社会人の私が手を出したら犯罪かなって』
「いいんじゃない。今月で卒業するし。それと、手を出したのは僕でしょ」
『んー…』

そう簡単に割り切れたなら楽なんだけど。

「……後悔、してる?」

真っ黒な瞳でまっすぐに言う彼に首を横に振ってみせる。

『してないよ』

身体をずらして彼に擦り寄ると、背中に腕がまわされた。
先程までの名残でしっとりと汗ばんだ肌と肌が触れ合うと、ひどく落ち着いた。
二つも年下のはずの彼は、華奢に見えるのにちゃんと引き締まった男の人の身体をしている。
彼の胸のあたりに寄せていた顔をあげて目を合わせる。
そのうらやましいくらい白く滑らかな頬にそっと手を添えて、彼の唇に自分の唇を重ねた。
触れるだけの、先程までとはちがう、軽くて優しいキスを送る。
彼は目を細めて、私の額に口づけた。




2012/10/08

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ