黒猫と、

□雨の日
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以前は、雨の日が嫌いだった。
湿気で髪の毛がまとまらないし、外にも出られないし。
でも、最近は悪くないかもなんて思ってる。
単純だけど、彼にはじめて会った日に雨が降ってたからなんて理由で。

ザーザーと止む気配もなく降り続ける雨。
まだ昼間なのに空は雲に覆われて、少し薄暗い。
窓際のテーブルでホットコーヒーを飲みながら、外を眺めていた。
マンションの3階のこの部屋からは外が結構見える。
長靴をはいた子供達が雨の中走り回っているのを微笑ましく思った。
と、その時。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
小走りでドアに行き、覗き穴から外を見ると視界に入る黒。
慌ててドアを開けると、恭弥くんがたっていた。

「入っていい?」
『え、うん…あ、ちょっと待ってて』

恭弥くんが中に入ったところで、玄関口で待ってもらい、洗面所からタオルを持って戻った。
恭弥くんの黒い髪が雨で湿っている。
着ている服も水気を吸って肌に張り付いている。
いくらまだ暖かいとはいえ、もう9月も半ば。
ほっといたら風邪をひくのに、恭弥くんはそういうところには無頓着だ。
背伸びして、有無を言わせず髪の毛をタオルで拭いた。
背伸びをしながらだからうまくできてない気もしたけど、恭弥くんはおとなしくされるがままになってくれている。
不意に、手を掴まれた。
冷たい恭弥くんの手。
どうしたのかと恭弥くんを見上げると、いつになく優しく笑っていた。
それから恭弥くんの顔が近づいてきて、触れるだけのキスをされる。

『ね、冷えるしお風呂入ってきたら?お湯沸かしてもいいし』
「そうだね。このまま優月に触れたら君が冷たい思いをするし」

続きは後でね、と耳元で囁いてバスルームに向かう恭弥くんを見送る。
はじめこそ、年下相手にドキドキさせられるのに抵抗もあったけど、今ではもうすっかりそれもなくなった。
だって、恭弥くんに勝とうだなんて、到底ムリな話だもの。




2012/10/04

 

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