今夜、君のとなりで

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並盛神社のうら。
いつもの穴場にふたりで座り込む。
遠くでかすかに聞こえる放送は、花火の打ち上げを前にする、スポンサー側の挨拶。
とくに気に留めることもなく聞き流して、全神経は隣にいる綱吉くんに集中していた。

「あのさ、言いそびれてたんだけど、」
『うん?』

恥ずかしそうにはにかんで、こちらに手が伸ばされる。
サイドで高く結い上げられた私の髪の毛にふれられた。

「浴衣、すごく似合ってる」
『ほ、ほんと?』

照れてしまって、頬を押さえながら尋ねると、綱吉くんはうん、と頷くだけじゃなく、かわいいとつけたした。
頬をおさえていた手に綱吉くんの手が重なって、顔から離される。
握った手に力がこめられて、どくんと鼓動が高くなった気がした。
自然と視線が絡んで、お互いに黙り込む。
遠くの方で、花火があがった音がしたけれど、目をそらすことができなかった。

『綱吉くん、私ね、約束してほしいことがあるの』
「何?」
『何年後でも、何十年後でもいい。並盛じゃなくてもいいから……また、ふたりで一緒に花火見よ?』

来年には皆、もちろん私も含めてイタリアに行ってしまう。
こんなふうに穏やかにすごすこともなかなかできなくなってしまうだろう。
ただのわがままでしかないけど、それでも約束してほしい。

「うん。約束な」

頷いて綱吉くんは小指を差し出す。
それに自分の小指を絡めた。
そのまますっと距離が縮まり、何をされるのかわかったのでゆっくり瞼を閉じる。
柔らかく重なる熱は、すぐに離れる。
笑い合って、どちらからともなく手を繋いだまま夜空に咲く花を眺めた。
いつもよりずっと綺麗に見えるのは、きっと隣に君がいるから。
綱吉くんも同じように思ってくれていたら、いいな。






 

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