今夜、君のとなりで

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まとわりつくような湿気のある熱に包まれて、繋いでいた手がじっとりと汗ばむ。
暑いね。
そう互いに口には出したけど、手を離すつもりなんてないのは同じだった。
普段外で手を繋いだりなんて、デートでもしないのに。
熱にうかされているのかもしれない。

『今年は、山本くんと獄寺くん、屋台やってるんだよね?』

人混みをぬいながら聞くと、綱吉くんは頷いた。

「懐かしいね。前、俺も一緒にチョコバナナ売ったりしたんだよ」
『しってる』
「え?」

何でしってるの?と不思議そうにしている綱吉くん。
私たちは中学3年のクラス替えで同じクラスになって、そこから話すようになった。
そのあとは高校のクラスも同じで、いろいろあって去年から付き合っている。
つまり、綱吉くんが屋台をやっていたころ、私たちは知り合っていなかった。

『だって、三人とも並中で有名だったもん。私も一緒に来てた友達とチョコバナナ買ったんだよ』
「な、なんかごめんね……しらなくて」
『謝らなくていいよ。仕方ないよね』

今は一緒にいるんだもん、そんなのいいよ。
笑って握りしめた手に力を入れると、綱吉くんも穏やかに微笑んだ。

『ほら、二人のところいこ?』
「うん」
『今年は何やってるの?』
「からあげだって言ってた」
『わ、あつそう』
「でもおいしいよね」
『綱吉くんには、ただで大盛りにしてくれそう。獄寺くんだし』
「あー……、たしかに。ちゃんと払うけどね」

いつもはみんなで来てたから、こうしてふたりでお祭りを過ごすのははじめてだったけど、結局みんなの話とかはしてしまう。
でも、嫌なんかじゃまったくない。
みんなのことを話すのは楽しい。
大切な仲間だもん。

「あ、あれそうじゃないかな」

綱吉くんが指差した先の屋台は、すごく賑わっていた。
私からは見えないけど、私より背が高い綱吉くんには見えているらしい。

『にぎわってるね』
「うん。よかった」

私たちの前に並んでいる女の子たちは、売っている二人をみてきゃっきゃと何やら話している。

『相変わらず、女の子にもてるなぁ』
「そうだね」
『……今年、ふたりで祭来てよかったかも』
「なんで?」
『だって、皆でってなってたら、屋台手伝うことになってたよ。そうしたら綱吉くんも、女の子にモテてたに決まってるし……』

せっかく大人っぽい格好したのに子供みたいなことをいってたら、どうしようもない。
恥ずかしくて綱吉くんを盗み見ると、口を手で覆っていた。
その顔がわずかに紅潮している気がする。

『綱吉くん?』
「や、ごめん……なんか、妬いてくれてるのがかわいくて」

私なんかしょっちゅう妬いてるんだけどな。
綱吉くんは気づいてないけど、高校生になったくらいから、二人に負けないくらいモテているのに。
でも、そんな綱吉くんを見てたら、私までなんだか照れてしまった。
なんともいえない空気で列を進むと、山本くんと獄寺くんが私たちに気がついた。

「よお!」
「来ていただけたんスね!」
「にぎわってるみたいだね」
「ああ、今のところ売れ行き良好だぜ」
『二人に差し入れだよ』

ここに来る前に買っておいたラムネの瓶を差し出すと、お礼がかえってきた。

「じゃあ、これな」

二つからあげを差し出す山本くん。
見本の品より明らかに量が多いそれを受け取る。

『わ、ありがとう』
「こんなにいいの?」
「いいに決まってるのな」
「日頃のお礼っス」

お金までも受け取らない姿勢のふたりを何とか説得して料金を支払う。
こんなにたっぷりじゃさすがに良心も痛む。

「そろそろ花火もはじまるな」
「うん。じゃあ、頑張って」
『手伝えなくてごめんね』
「いいんスよ。二人で楽しんでください」

二人に手を振って別れる。

「あのふたり、何だかんだで仲良くやってるみたいだな」
『うん。もっとケンカしてるかなって思ったけど』

普段、獄寺くんがつっかかっているけど、あのふたり、実はかなり相性がいいと思う。

「花火、始まりそうだし、座ろうか」
『ん』

人混みを抜けて、喧噪から遠ざかる。
あと数分で、花火が空に咲きはじめる。






 

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