TF-side

□+α
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『エネルギー補給をしてやってくれ。まだ生きてる。』

そう言ってスカイクエイクが連れてきたのは、小柄なウーマン型だった。



 《+α》



 拾われてきた時は体中傷だらけの状態だった。
あの時はもう手遅れなのではないかと思いもしたが、応急処置が終わると小柄な機体はぴょこんと起き上がり、二人の心配をよそに元気に動きだしたのだった。
本人はオートボットとの戦闘で傷ついたのだと説明していたが、おそらく“巻き込まれた”のだろう。
戦闘向きとは思えなかったし、戦うにはまだ彼女は幼すぎた。

ネルというその少女はあの日からずるずると居候生活を続けている。
二人も彼女を追い出すことはしなかったし、それが当たり前になっていた。
ただ、幼いあの頃のネルはなんとも愛らしかったのだが、現在もその可愛らしさは残しつつ甘えん坊でいて生意気で憎たらしい“小娘”に成長し、今や二人の、いや…主にドレッドウィングの手を煩わせている。

『……でね、聞いてる?』
『…』
『ドレッドウィングー。』
『…』
『おーい。』
『…』
『おーいってばー。』
『…』
『おーい。オジサン。』
『っ…』

一度振り返りかけてやめた。
ネルがニヤリと笑う。

『今反応したでしょ?』
『静かにしてろ。』
『暇なんだもん。ちょっとくらい相手してよ。』

いつもこの調子だ。
スカイクエイクがいるときは彼にかまってもらっているが、ネルはなぜかこちらの仕事中やら手が離せないときに限ってかまってくれと言ってくるから困ったものだ。
だからと言って放置もできない。
以前『外で遊んでこい』と冷たくあしらったところ、遅くに帰ってきて『知らないオジサンに遊んでもらった』とか言うもんだから心配して二人でどこのどいつだと問い詰めた。
そしたらその“オジサン”の名前が“メガトロン”だと言うではないか。
元々子供好きらしくて助かった…(ネルは子供と呼べるほど幼くも無いのだが、中身はやたらと子供っぽい。)

『退屈すぎて死んじゃうよ?』
『退屈で生きものは死なん。』

かまってやりたいが、今はタイミングが悪い。

『悪いが、今作業中なんだ。』
『いつも何かお取り込み中じゃない?』
『あと少しだから待ってろ。』
『うん!』

ネルはドレッドウィングの背中に飛び乗ると、彼の肩ごしに作業中の手元を覗きはじめた。
この方がおとなしくていい。
それにネルとこうしているのはドレッドウィングにとって癒しの時間なのだ。

『なにそれ?爆弾?』
『いや、違うが触るなよ?』

『ドカーン!』

『きゃー!?』
『っ…』

正直、聴覚回路を破壊しかねない声と背中にかかる重みに肩が若干震えてしまった。

『ビビッたか?』
『野郎…』

ゆらりと立ち上がり、スカイクエイクのむなぐらを引っ掴んだ。

『爆発しないんだろ?』
『まあな。万が一壊したらどうするつもりだ?その時は俺の怒りが爆発するぞ?』
『こっちだって知識があってやってる。』
『あるならやるなって話だ。』

子供じみた悪戯には腹が立つ。
当の本人はニヤリと悪い顔で笑っているし、常日頃から危機感が皆無のネルも後ろで笑っているが…

『はぁ…』

この二人にはさまれては、なんだか怒る気も失せてきた。
気が抜けるというか、憎めないというか、でも腹が立つというか…

『怒ったか?』
『怒ってない。』
『お顔が怖いよ?ドレッドウィング。あ、もとからだったっけ?』
『それは俺もってことか?』
『双子だもんねっ!』

なぜか今度は二人してニヤリ…だ。
俺をバカにして楽しいのか…と、つぶやいた声はどうやら聞こえていないらしい。
ついでにネルは“怖い”とは無縁の顔をしているし、何のつながりも持たない居候だが、なぜだか最近スカイクエイクに似てきた気がする。

『ネル、最近どこかスカイクエイクに似てきたな。』
『え!?うそ!?やだ!』
『嫌だと?』
『顔は嫌。』
『安心しろ、顔は似てない。』
『よかった。』
『よかったって何だ!』
『きゃーっ!』

ネルはケラケラと笑いながらフワリと飛び上がり、逃げていってしまった。
どうやら追い掛けっこが始まるらしい。
スカイクエイクはネルを追い掛ける前に一度立ち止まり、振り返った。

『たまにはネルにかまってやれよ?』
『かまってやってる。誰かが邪魔さえしなければ。』
『ああ。』
『なんだ?その“ああ”ってのは。』
『別に。』

またニヤリとして、スカイクエイクはネルを追った。
本当に最近よく似ている。
あの“ニヤリ”とか…

『あぁ、似てるのは顔だったな…』

二人が飛び出していったあとを眺めながら、一人呟いた。



 
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