OTHERs

□近くて遠い
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 何の変哲もない平和な町だが、近所の街灯が壊れたきりなのがとんでもなく不便だ。
此処に住むようになって少し慣れてきたとはいえ、やはり夜に出歩くような真似はしたくない。
そのくらい真っ暗なのだ。
真っ暗が嫌でも“補習”というものはどの国でも長引くもののようで、気が付けばすっかり日が暮れてしまっていた。
こうなってしまったのはもう仕方がないとして、ノゾミは何事も起こらないことを祈って家路を急ぐ。
せめて街灯が壊れていなければ、怯えて歩くことはないのだが…

「…(うわぁ〜…やめてよぅ…)」

前方から怪しい二人組が、こちらに向かって歩いてくる。
何かコソコソ話しているが、何かはわからない。
今、不自然に避けたりしたら追い掛けられるだろうか?
何処か逃げ込めるところがあればいいが、追い詰められるのはお断わりだ…
ノゾミはできるだけ早足で通り過ぎようとした。

「ひっ……!」

すれ違いざま、はがい締めにされて口をふさがれた。
抵抗してもまったく解放される気配は無く、もしかしたら、自分は此処で死ぬのではないかと思った。

「ん〜〜……!」

時間稼ぎでもなんでもいい。
とにかく暴れて、誰かが見つけて通報してくれるか、このまま運良く逃げられれば…

「何やってる?」

暴れながら、今いる二人ではない誰かの声を聞いた。
こんな状況で声をかけてこられるなど、相手は相当鈍感な人間か、この二人の仲間なのではないかと思ったが、驚いたことにどちらでもないらしい。

「ん……?えっ……?」

あっという間に男の腕から解放されたかと思うと、さっきの怪しい二人組がアスファルトの上でのびている。
顔を上げると、どこかで見た顔の男がいる。

「あ…」

近所のオジサンだ。

今足元でぐったりしている二人組に負けないくらい人相は悪いが、近所の住人で間違いない。
言葉を交した事はないし、時々見掛ける程度だし、むしろ要注意人物と思ってノゾミはこの“オジサン”を警戒していたくらいだ。

「ありがとう…」

うっかり黙り込んでしまったが、思い出したように礼を言った。

「こんな時間に出歩くな。」
「…でも、補習が…」
「補習?そんな頭悪いのか、お前。」

助けてもらったことには感謝しているが、少しだけ腹が立った。





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