OTHERs

□ビタースイート
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 惨めだ。



バーニーたちの制止も聞かず暴走した。
それで、自業自得というわけだが…冷静になると自分が嫌になる。

自分たちはいいチームだ。

おかしな奴ばかりだが、悪くない。
自分だってもちろんその一員のはずだが、明日はどうだか…?今の姿はまるで捕虜だ。

武器を持つと、もう一人の自分に支配されるような、おかしな感覚に襲われる。
あとは、副作用だ…。

「…(これさえなきゃ、気分がいいんだがな…)」
「大丈夫か?」
「あぁ…」

手の拘束が解かれると、圧迫感がなくなった分だけ少し楽になった。
しかし、またおかしな衝動を起こしはしないかという不安は膨らんだ。
武器を持つどころか…今はもう、見るだけでだめだ…

「お前にやるよ。よく切れるぞ…」

そいつを俺から遠ざけてくれ…





 《ビタースイート》



 「ただいまー。」

ノゾミは小走りで目的の部屋に向かう。
同居人は戻ってきているはずだが、返事はない。

「ハニー?」

ソファのそばに転がった眼鏡を拾ってやりながら、デカい体をソファからはみ出させて眠っている持ち主に声をかけた。

「ガンナー、ただいま…」

ひどく散らかったテーブル、その前のソファで眠るガンナー。
テーブルやその下を探してみるが、考えていたようなものは無いようだ。

ドラッグはやめると言ったはずだが、まだ使っていたらしい。
バーニーから連絡があったときは裏切られたショックと、怒りと、自分を押さえられなくなっていく彼を心配する気持ちと、それらがまるで喉につかえたように言葉が出てこなかった。

「外された。」
「ガンナー…」
「ヤク中はいらねぇんだと…」

ガンナーは座り込むノゾミと視線を合わせ、疲れ切った声で告げた。

「もう使わないって言ったでしょ?」
「俺はまだやれる。」
「ガンナー…」
「まだやれる…」

ノゾミの頬に甘えるように頬をすり寄せてくる。
大きな肩が震えて、ノゾミの背を覆うように回された腕もひどく震えていた。
“心をマヒさせられる”と薬に手を出したようだが、この様子を見ると、今日は思い止まったのかもしれない…

「大丈夫。」

子供をあやすように頭を撫でてやると、背に回された腕に力がこめられた。

「少し休むだけだよ。今は、休暇がとれたと思って…」
「そんな気分じゃない…」
「そう…」

だいぶ落ち込んでいるガンナーに、これ以上言葉をかけるのはやめておいた。
優しい言葉や励ましも、今の彼には毒になりかねないからだ。
何も言わない代わりに、頬にキスをした。
すぐに耳元にお返しのキスが贈られて、ノゾミの体はふわりと持ち上げられる。

「ガンナー?」
「近ごろよく眠れなくてな…“抱き枕”がいねぇからか…」
「やつれてるのは寂しかったせい?」
「お前が俺を置いていくからだ。」
「たまには里帰りさせてよ。でも、ただいまっ。」
「あぁ。」

飛び込むようにベッドに倒れこみ、何度もキスをした。
それから、ガンナーが眠れるまでと他愛もない話をした。
ほとんどが久々に帰った日本での話だったが、ガンナーはただ楽しげに話すノゾミの声を聞いていた。
と言っても、途中からはあまり聞こえていなかったようだが…

「…ん?」
「ふふっ…今寝てたでしょ?」
「まだ寝てない…」

返事はしているが、睡魔は確実に彼を夢の中に引き込もうとしているようだ。
重たい目蓋を開けようともせず、手探りでノゾミの手を掴んで引き寄せる。

「ふふっ…ホント、デカい子供みたいだね。」
「ガキはいねぇんだから、甘えさせろ…」
「もう…」
「…できたら、二人ほしいな。男と女、一人ずつ…」
「どっちが先?」
「どうかな…」

答えを考えているうちに眠ってしまったらしい。
本当に子供のようだと微笑みながら、ガンナーの寝顔におやすみのキスをした。


 
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