OTHERs

□ROLL
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 「や〜ん!のんでるぅ〜?」
「ノゾミは飲み過ぎじゃないか?」
「そんにゃことないぉ〜?」

酒は飲んでも飲まれるな、なんて言葉を聞いたことはあったが、此処にいるノゾミという日本人は酒に飲まれるのが趣味のような女だから困ったものだ。

「舌が回ってない。」
「もともと、まぁってないぉ…ひっく…!」
「…」

元々?そんなバカな。
こんな男だらけの場所で隙を見せるのはいい加減やめてもらいたいものだ。
ただでさえ…

「ノゾミ、大丈夫か?」
「がんなー…手ぇおっきぃね…うふふっ…」

ただでさえこのケダモノはタチが悪く、ノゾミを抱き寄せてはわざわざこちらに視線を寄越して不敵に笑う。

「完全にできあがってるな。」
「まだだいじょうぶ!」
「どの口が言ってるんだ?」
「このくちだぉ。」

なんて唇に人差し指を持っていく仕草に、大男の目がギラついたような気がした。

「ノゾミ、そいつから離れろ。」
「ん?え…?ふふふ…」

ほんの数秒こちらを向いたノゾミと目が合う。
酔っているせいだが、とろんとした眼差しに心臓が跳ねた。

「ありゃノゾミの特等席だからな。」

そう言ったのはシーザーだっただろうか、だがそんなことはどうでもよかった。
二人が何を話しているのかはわからなかったが、体が勝手に動いていた。

「ほえ…?やーん…あたし…まだいるー…」
「これ以上醜態を曝すな。」
「いじわるーっ!」



 《ROLL-01-》



 「わっ…!」

朝、ベッドから危うく落ちそうになって目を覚ますと、ノゾミは自分のではない部屋にいた。
キョロキョロと周りを見回し、物音を立てないように部屋を出る。
すぐに、ソファに寝ているこの部屋の主の姿に気が付いた。

「マジで…?」

ノゾミはよく泥酔するが、いつもは自分の部屋の床に放置されている。
これはいったいどういうことだろうか?
不思議を通り越して少し不気味だ。

「オジサン?」

恐る恐る“同居人”に近づいた。

「ねぇ、オジサン…」

軽く肩を揺すると、ヤンがこちらを見上げた。


「また、かなり酔ってたぞ。」
「あぁ…また…」
「ガンナーにべったりで離れようとしなかった。」
「あー…アレはさ、ほら…たぶんガンナーが離してくれなかったの。」
「どうだか…」

なぜか言い訳にしか聞こえないノゾミの言葉に、ヤンは少し刺のある口調で返した。
ノゾミは酔っ払うと誰かれかまわずくっついて離れなくなる。
バーニーのように大人の対応ができるならまだしも、ガンナーはいつもタチが悪かった。
ノゾミをガッチリとホールドして離そうとはしないし、甘えるように首筋に顔を埋めてみたり、頭を撫でてみたり、全部見せ付けるところが特にタチが悪いと思う…
ヤンはそんな状態から無理矢理彼女を引き離し、勢いに任せて連れ帰ってきてしまったのだ。

「あー…ヤバい…記憶無い…」
「いつもだ。」
「いつも私を担いで帰ってくるわけ?オジサンまだまだタフだね。」
「足首掴んで階段を引きずられたいのか?」
「お姫さま抱っこがいい。」
「言ってろ。」

 ノゾミとは一緒に住んでいるが、恋人などではない。
幼くして帰る場所を失ったノゾミを放っておけず、拾って一緒に住まわせたのだ。
ノゾミとは今や親子であり、師弟であり、仲間でもある。

「んー…なんか、アタシ今ガンナーのにおいがする…」
「むかつくからシャワー浴びてこい。」
「はーい。」
「出しっぱなしは禁止だからな。」
「わかってる。」
「わかってないから言ってる。」
「そんな細かいこと気にしないでよ。」

バスルームに向かう後ろ姿に、意味もなく緊張した。
親子ほど歳の離れた小娘に、自分はいったい何と馬鹿なことを考えているのだろう?

「ばかばかしい…」

最近自分はおかしいと思う。
単なる欲求不満だと決め付けていたが、“女に飢えている”のではなく“ノゾミを独占したい”のだと気が付いてからだ。
今やノゾミが他の男と親しげに話していると、たとえそれが仲間であっても頭に来る。
昨夜も嫉妬に任せて連れ帰ってしまったし…

ガンナーがいつも見せ付けてくるのもふざけているだけだとわかっているが、自分にはそれができないから腹が立った。
ノゾミにとって、自分は父親でなくてはならない…

『覗いちゃヤだよー?』
「まだ酔ってるな。誰が得する?」
『ガンナーあたりにはサービスショット?』
「黒髪フェチだからな…」
『あはは!オジサンのことも大好きだもんね!』
「やめろ。気色悪い。」

パサッ…

元々彼女が大雑把な所為か、服を脱ぎ捨てる音がわざとらしいほど耳に付いた。
続いてドアの音に、シャワーの音、そして再びノゾミの声だ。

『ねぇ、なんでオジサンのベッドに寝かせたの?』
「文句言うな。」
『文句じゃないよ。いつもは床じゃん。』
「…」
『私のせい?』
「そこで寝るって言って聞かなかった。」
『マジ!?ごめんねー!』

昨夜のノゾミの言動を思い出したら、耳の後ろがこそばゆい気がした。
“やんとねる。”
子供の頃のように、そう言って聞かなかったのだ。
しかしノゾミはもう子供ではないし、ヤンはノゾミに対して“持つべきではない感情”を持ち始めている。
ノゾミが眠ってから自分はすぐにソファに移動したが、彼女が眠るまでの数分間はまるで拷問だった。

「っ…お前はもう酒を飲むな。絶対だ。」
『えー…無理かも。大好きだもん。』
「何かあってからじゃ遅い。」
『大丈夫だよ!オジサンがいるときしかこんなに飲まないし!あはは…!』
「…あぁ、もう…」

あとはシャワーの音だけが聞こえていた。
出しっぱなしにするなとは言ったが、そんなことを一々気にしていられないほどソワソワしていた。

『ねぇ…』
「今度はなんだ?」
『タオル忘れてた。』
「…今持っていく。」

タオルを手にバスルームへ向かいながら、小娘一人の所為でパンク寸前の頭を掻いた。



 
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