OTHERs

□ROLL
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 極力平静を装って、タオルを届けるというだけのことをした。
ドアの向こうにはノゾミがいて、しかも何も身につけていないなんて…まるでティーンエイジャーみたいな幼稚な想像をしかけた自分の頭を鈍器で殴ってやりたくなった。

「ここ、置いておく…」
「はーい。」

ヤンがその場を離れるのを待たず、ノゾミが顔を覗かせる。
無意識に振り返ってしまったことを後悔した。
胸より上しか見えないが、まだ若すぎるノゾミの上気した肌と濡れた黒髪が、眩暈がするほど強烈な色気を感じさせる。
ほんの一瞬のことだが、長時間見惚れていたような、そんな錯覚を起こした。

「見惚れた?」

一瞬、心の中を見透かされたかと思った。

「お前に?」
「他に誰か?」
「フンッ…まだ子供だ。」
「オジサンが思ってるほど、コドモじゃないかもよ?」

目の前の不敵な笑みに、何も知らずに自分をからかうノゾミに、瞬間、何かの糸が切れた。

「オジサン…?」
「おれを挑発してるつもりか?」

服が濡れるのもかまわず、ノゾミの体を壁に押しつけた。

「っ…!ちょっ…何!?」

咄嗟に体を隠すことを優先してしまったノゾミの両手は、お互いの胸の間で自由を失っている。

「オジサンッ…!離して…!」

暴れる脚の間に膝を割り込ませ、乱暴に髪を掴んで顔を上げさせた。

「オジサン…?」

見開かれた褐色の瞳に、よからぬものが腹の底で膨らんでいく。
更に追い打ちをかけるように、微かな吐息が唇を擽った。

「ねぇ、オジサン…何か言って…?怖いじゃん…」

唇が、紡ぎだす声が、胸を押し返そうとする手が、怯えて震えている。

そのまま奪ってしまえと、悪魔が囁くのが聞こえた。

「大人をからかうのも、大概にしろ。」
「…」

溢れだした感情を、奥歯を噛み締めて抑えつけた。
低い声で耳打ちすると、ノゾミに背を向け、呆れたように首を振った。
ノゾミにではなく、理性を失いかけた自分に呆れた。

真っすぐソファに戻ると、崩れるように体を預け、深い溜め息を吐いた。

ノゾミは普通の同世代の女と比べれば鍛えられているし、もちろんその強さは認めている。
しかし、いつもノゾミの周りにいるのは彼女以上に鍛えぬかれた男たちだ。
それに、喧嘩のような闘い方しかできなかった彼女に闘い方を教えたのは自分。
弱点も癖も知っている。
ノゾミは自分の力を過信しすぎているか、わざと隙を見せているとしか思えなかった。
どちらともあまり思いたくないが、特に後者はよからぬ期待をしてしまいそうで…

「オジサン…?」

ノゾミが躊躇いがちに声をかけてきた。
髪はまだ完全には乾いておらず、さっきの姿が頭をよぎる。

「怒ってる…?」
「お前には俺がご機嫌に見えるのか?」

ノゾミは黙って首を横に振った。

「ごめん…」
「言葉だけの謝罪なんて要らない。」
「…」
「趣味の悪い冗談は嫌いだ。」

冷たく接することでしか、やっと繋ぎ止めた理性を保っていられる気がしなかった。

「でもさ…」
「たとえ仲間であっても、男に隙を見せるな。」
「…」
「お前は弱い。それを自覚しろ。」
「わかってるよ…でも、好きな人には、油断してもいいでしょ?」
「随分と気が多いんだな。」
「っ…そんなことないもん!」
「お前はいつも隙だらけだ。誰に対しても…」
「…」

“好きな人”なんていう、少々子供っぽいが甘い言葉に神経がささくれた。

とどめの言葉でノゾミを突き放すと、張り詰めていた空気を少しだけ揺らして、ノゾミは出ていった。

「何をむきになってるんだ…おれは…」





→続く
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