単品

□合言葉はミラクルパイン
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 俺はそのまま友人の部屋でゲームを続け、消灯間際に自分の部屋へと戻った。
 戻りたくなんてなかったが、仕方ないのだ。何故なら明日の授業の用意が、部屋に置きっぱなしだから。

 部屋の扉をひらくと、独特な生臭いにおいが鼻をついた。それだけでも辟易するのに、視界に飛び込んだ俺のベッドがぐしゃぐしゃに荒らされていた。

「また俺のベッドでやったのだ・・・」

 怒りにふつふつと震えていると、背後から頭を叩かれた。振り向くと俺の天敵、相沢が俺を見下ろしていた。

「おそかったな、童貞君」
「・・・・・・俺の名前は冬太(とうた)なのだ! 断じて童貞なんかじゃないぞ!」
「うるさいな、ぎゃんぎゃん喚くなよ。童貞がうつるだろ?」
「うつるか、阿呆!!」

 俺の怒声に、相沢はくすりと口の端をあげて笑った。
 確かに、相沢は格好いいと思う。俺も男なのだ、それは素直に認めよう。
 整った顔立ちはまるで芸能人みたいだし、浮かべる笑みはいつも甘ったるくて人目を引く。シャワーを浴びていたらしく、バスタオルを巻いただけなので割れた腹筋がよくわかる。うらやましい、もとい、腹立たしいスタイルの良さだ。
 だが、それとこれとは別なのだ。
 相沢が手に持っているペットボトルにちらりと視線を移した俺は、そのラベルに目をひん剥いた。

「それ、俺のジュースなのだ!!」
「ああ、のどが渇いてたから?」
「ふざけるなっ!」

 魔法少女パインちゃんの絵がプリントされたそれは、大手コンビニとのコラボ商品で、パインちゃんの必殺技「ミックスパインジュースシャワー」が入っているという設定の素晴らしい一品なのだ。
 コラボは既に終了していて、それは最後の一本だった。だから俺が、パインちゃんとの別れを惜しんでちびちび飲んでいたというのに・・・!
 相沢の手にあるボトルには、中身がほとんど残っていなかった。俺はめまいを感じながらも必死に相沢へ手を伸ばした。

「返せなのだ、俺のパインちゃんに何をするのだ!」
「相変わらず童貞君はキモいな。別に普通のジュースじゃん?」
「違うのだっ! それは、俺とパインちゃんの愛の証なのだ!」
「うわ、マジでキモいな。取れるなら取ってみれば?」

 と、相沢は笑いながらペットボトルを高く掲げた。そうされると俺の身長では、ボトルまで手が届かない。俺は何度かジャンプしたが、そのたびに相沢はボトルを揺らして俺をかわした。

「ははっ、猿みたいな顔だな!」
「・・・・・・ぐぬぬ、」

 俺はぎりぎりと歯をかみしめた。目指すはパインちゃんだ。パインちゃん、待っててね!俺が今たすけてあげるから!
 俺はひざを曲げて反動をつけると。

「とりゃ!!」

 相沢の腕に、飛びついた。
 この攻撃にはさすがの相沢も驚いたらしい。バランスを崩して相沢は床に倒れ込んだ。どすん、とすごい音がして相沢が顔をゆがめる。俺も相沢の上に倒れ込んだのだ、衝撃は二倍になったのだろう。ざまあみろ。
 しかもその衝撃で、相沢のタオルが取れてフルチンになった。ますますざまあみろだ。
 流石に慌ててタオルをまき直す相沢をよそに、俺はパインちゃんを相沢の手から奪還した。

「パインちゃん、ごめんね、俺が大切に飲んであげてたのに・・・!」
「テメ、童貞!!」
「うるさいのだ。俺とパインちゃんの恋路を邪魔する奴は滅びればいいのだ」

 俺は相沢から離れると、すぐさま冷蔵庫へと向かった。もちろん残り少なくなってしまったパインちゃんを保存するためだ。
 それから、夕べ買った「魔法少女パインちゃんコラボプリン」も食べなくちゃな。それも人気商品なので、ひとつしか買えなかったのだ。だから夕べ半分食べて、残りを今日食べる予定だった。
 うきうきと冷蔵庫の扉を開けた俺は、しかしまた目をひん剥くハメになった。

「・・・・・・プリンがないのだ!!」

 ラップをして、きちんと保管しておいた筈なのに!俺がきっと背後を振り返ると、相沢はしれっとした顔で。

「あ、それ俺が食ったから」
「・・・・・・ふざけんなー!!」

 俺はついうっかり、手に持っていた大切なパインちゃんを相沢に投げつけてしまったのだ。

 ああ、パインちゃん!!

 しかも相沢が避けたので、パインちゃんは床に転がってしまったのだ。
 全てがムカつく。全部相沢のせいなのだ。

「お前なんか・・・・・・!」

 俺は相沢をにらんだ。相沢のへらへらした笑顔は、本当に、見ているだけで腹が立つ。

 お前なんか死んじゃえばいいのだ!!

 と、怒鳴った俺の声は、興奮しすぎてどもりまくり、相沢には「何言ってるのかわかんねーし」と笑われただけだった。

 本当に、ムカつく奴なのだ。



 
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