単品
□五十木と万里
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五十木は幼なじみだった。
家も近かったし、母親は親友同士だった。父親は同じ部活の先輩後輩という仲で、俺たちは気がついたら互いの家を行き来していた。
五十木は活発な子供だった。
臆病なところがある俺は、家の中で一人で遊ぶのが好きだった。
そんな俺の手を引っ張って、外に連れ出してくれたのが五十木だ。迷惑だと思うことも多かったが、今思えば、それは俺の甘えだった。
川遊びや、木登り、探検ごっこ。
野蛮な遊びは俺の趣味ではなかった。嫌がる俺を、五十木は根気強くときふせては遊びの仲間に引き入れた。
俺はそのたび文句を言ったが、それはただ、五十木なら何を言っても許してくれると分かっていたからだった。
五十木は、俺にやさしかった。
内向的だった俺は、よく周囲にいじめられた。庇ってくれたのはいつだって五十木だ。俺をいじめる奴は許さない、と、それが幼い頃の五十木の口癖だった。
万里のことは、俺が守るからね。
五十木はそう言って笑った。人形のような顔がゆっくりと緩む。そんな五十木の笑顔が、俺はすごく好きだった。
なのに、五十木は。
五十木は、死んでしまった。
五十木は、幼なじみだった。
五十木は、もうどこにも居ない。