単品

□君は僕のお人形
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 目を覚ますと、美形の男が俺を見ていた。

「うおっ!?」

 あまりに突然の事態すぎて、変な声が出てしまった。男は畳に正座して、飛び上がった俺を見つめている。
 えらい綺麗な顔の男だ。肩まである髪の毛は茶の混じった赤い色、目は空みたいな青い色だ。
 あきらかに日本人じゃない。というか、どこの外国にも見あたらない色彩センスである。
 整った顔立ちといい、しみ一つない白い肌といい、まるでゲームに出てくるCGのキャラクターのようだった。何だこれ、俺はゲームの世界にでも紛れ込んでしまったのか?

「初めまして。アンドロイドレンタル商会から参りました。これからよろしくお願いいたします」

 男が深々と頭を下げる。しかも三つ指を付けて、だ。
 俺は目を白黒させた。確かにアンドロイドはレンタルしたが、それはこんな美形じゃない。

「いや、俺がレンタルしたアンドロイドは家政婦タイプだったんだけど・・・・・・」
「そうなのですか?」

 今度は男がびっくりした顔をした。表情の変化がまったくアンドロイドらしくない。どうやら男は、最新型のアンドロイドのようだった。

「おかしいですね。確かにここに来るようにプログラムされているのですが・・・・・・」
「分かった。ちょっと確認するわ」

 俺は布団から起きあがると、ちゃぶ台の上のパソコンに向かった。

 アンドロイドをレンタルしたのは一週間前のことだった。
 きっかけは腕を怪我したこと。利き手を骨折してしまい、しばらくギプスを付けるハメになったのだ。
 一人暮らしだから家事ができない、そう愚痴をこぼしたら、病院の先生からアンドロイドのレンタルを紹介された。一般人には買えない高価なアンドロイドも、レンタルなら安く利用できるらしい。
 俺が選んだのは家政婦タイプのアンドロイドだ。力仕事や難しい作業ができない旧式の物なので、料金はえらく安かった。炊事洗濯をしてくれれば良かったので、俺はそのアンドロイドをレンタルした。
 それが一週間前のこと。

 しかしパソコンで確認すると、俺がレンタルしたのは背後にいるアンドロイドになっていた。最新型だ。料金は目玉が飛び出るぐらい高かった。
 こりゃ無理だ。
 こんなアンドロイドをレンタルしたら、怪我が治る前に俺が破産してしまう。俺はすぐさまアンドロイドレンタル商会に電話をした。

「すいません、アンドロイドを間違ってレンタルしてしまったようなんですが・・・・・・」

 そう言うと、オペレーターの女性は「確認いたします」とすぐさま返事をした。ちょっとの保留音のあと、中年っぽい男性の声に変わった。

「申し訳ございません。こちらの手配ミスのようです」
「え、マジですか。どうすれば良いんでしょうか」
「お客様が当初にレンタルしたタイプはすでに予約が入っております。申し訳ありませんが、そのアンドロイドをしばらくお使いになっていただくしか・・・・・・」
「こんなレンタル料、払えません」
「差額はこちらで負担いたします。家政婦タイプの予約が空き次第、そちらに手配いたしますので」
「はぁ、それならいいですけど・・・・・・」

 最新型のアンドロイドも、炊事洗濯はできるらしい。それを聞いて俺は一応納得した。差額を負担してくれるのなら、俺には特に文句はない。
 電話を切って振り返ると、男は正座したままだった。微笑まれるとどきりとする。美形の笑みって心臓に悪い。こんなイケメンと生活するなんて、俺の心臓は保つのだろうか。

「お電話は終わりましたか?」
「はあ・・・・・・なんかあっちのミスみたいです。えーと」

 さて男の名前は何というのか。パソコンで確認すると「ジェフ」という名前らしい。そこでふと気が付いた。

「ジェフさん、どうやってこの部屋に入ったんですか?」
「鍵が空いておりましたので」

 だからって、勝手に入るなよ。しかも人の寝顔を勝手に見るな。文句は色々あったけど、鍵をかけ忘れたのは自分なのであまり強くは言えなかった。

「では、私は朝食の支度をいたしますので」
「あ、お願いします」

 最新型のアンドロイドは、いちいち命令しなくても勝手に仕事をしてくれるらしい。
 なんだか妙なことになってしまった。ジェフの後ろ姿を眺めながら、俺はギプスをぽりぽり掻いた。


 
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