単品

□ラプンツェルは眠れない
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 小鳥遊悠里(たかなしゆうり)は細谷桐比古(ほそやきりひこ)が嫌いである。

 どのくらい嫌いかというと、日本に憲法も刑法も民法もなければ八つ裂きどころか八百くらいに裂いてしまいたいくらい嫌いである。
 嫌いすぎて、実際に計画をたてかけたことは数え切れないほどある。死体の遺棄方法をインターネットでしらべたのも一度や二度ではない。

 だが実行しなかったのは、結局憲法をおそれたからでも桐比古にたいする感情がおさまったからでもない。
 実行しなかった理由はただひとつ。八百どころか八千くらいに裂いても桐比古はぜったいに蘇って自分につきまとうだろう、と予測したからだった。

 細切れの肉と骨になった桐比古が自分に寄り添ってくるのを想像したところで悠里は涙をのんで桐比古殺害計画を破棄した。悠里はホラー映画が嫌いだった。ゾンビ映画はもっと嫌いだ。

 だから、桐比古が今生きているのは自分のおかげだ、と悠里は勝手に思っている。かなり自分勝手な思い込みだが、そのくらい自分勝手じゃないと桐比古には勝てないと悠里は悟っている。
 だから、桐比古は生きていることへの感謝としてすこしくらい自分の気持ちを汲んでくれてもいいとおもうし、一ミリでもいい、自重するべきだと悠里は思っている。
 実際は一ミリどころかフルマラソン百回分くらい自重してほしいくらいだが、桐比古はフルマラソン百回だろうと千回だろうとゴールに悠里さえいれば満面の笑みでこなすだろう。
 悠里にはそれが分かっていたし、桐比古のことをそこまで理解している自分が憎かった。

 そういうわけで、悠里は桐比古が嫌いである。
 嫌いなのだが、運命というのはいつだって悠里に味方してはくれないのだった。
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