単品
□精霊さん、いらっしゃい
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俺は職業は風の精霊だ。
笑わないでいただきたい。だって事実なのだから。
精霊使いや魔導師が魔方陣をつかって呼び出す精霊、それが俺である。
位は中級の風の精。高位ではなく、下位でもない。つまりは風の精霊の中では平凡な力量であるが、それでも人の家を破壊するくらいの突風は作れる。結構すごいだろ?
精霊は職業じゃないだろう、と思う方もいるかもしれない。だがそれは甘い考え方である。
精霊界とは、いわば会社のようなものなのだ。どれだけ人間界で力を出せたかによって、給料が変わる。つまり人間的にいえば歩合制ってやつである。
上級精霊への昇進もその評価によって決められるので、つまり俺のことは、精霊界に勤めるサラリーマンだとでも思っていただきたい。
格好悪いが仕方ない。だって事実なのだから。
さて。
俺はそんな風の精霊を、もう三百年続けている。
三百年という時間は人間なら長く感じるだろうがそこは不死の精霊のこと、精霊界では俺はひよっ子のぺーぺーである。同じ位の精霊のなかでは一番下っ端の俺は、よく人間界にかり出される。
つまりはこういうことだ。
「まーた人間界から呼び出しかかってるぜ。俺行くのだるいし、どーせくだらねぇ依頼だろ?面倒くせぇ、おいお前、ちょっくら人間界まで行ってこいや」
「分かりました、先輩!」
という感じである。
歩合制にしては先輩のやる気がないのは、ここ最近、人間界からの呼び出しの理由がくだらないものばかりになっているからだった。
原因は、人間界における魔法文化の発展。
昔はそりゃあ良いものだった。精霊を扱える人間などほとんどおらず、呼ばれるのも稀だった。いざ呼ばれたら、ちょっと風を作っただけでも敬われ、神様みたいに崇めたてまつられたものだった。
もちろん人間に感謝されるので、精霊界での評価も高くなる。
だが最近の人間たちは多少小賢しくなってきたらしい。
精霊召還を手助けする道具なんぞが作られて、魔力を持たない一般人でも精霊を召還できるようになってしまった。
同時に精霊にたいするありがたみも薄れて、先日など呼び出されたと思ったら「赤ん坊が寝てるから風を送ってちょうだい」と頼まれた。そんなもん、扇子でも使ってろ、この阿呆。
そんな呼び出しばかりなので、もちろん仕事に対する評価も全くあがらない。そのせいでやる気をなくした先輩たちによって俺は仕事を押しつけらまくっていた。
断りたいが、下っ端としては上司のいうことには逆らえない。
そんなわけで、俺はこのところ頻繁に人間界に呼び出されていた。