単品
□ラブレター
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最近気になっている人がいる。
名前は山代百合子先輩。俺の通う高校の生徒会副会長だ。
皆は彼女を「鉄面皮」や「歩く校則女」などと呼んで陰口を叩くが、俺は彼女がとてもやさしい人だということを知っている。
以前、図書室で本をばらまいてしまった俺を助けて、一緒に本を整理してくれたのだ。慌ててお礼を言った俺に、「いいのよ」と微笑んだ、その笑い方がとてもきれいで心に残った。
それからというもの、図書室で彼女を見かけるたびに視線がいった。俺は図書委員だから毎日図書室にいるが、先輩も頻繁に図書室におとずれる。読むものはミステリー小説の時もあれば、絵本を読んでいる時もある。特にこだわりはないようだった。
でも、先輩の読書はとても熱心だ。ホラー小説を読んでいるときは顔が青ざめているし、絵本を見ているときは、少しだけ笑窪をみせる。普段はクールな先輩の、表情の変化にどきどきした。
好き、というのには少し遠く、気になる、というのがぴったりくる気持ち。俺はなんとなく、先輩がいつも笑って本を読めればいいなと思うようになっていた。
けれどここ最近、先輩には悩みごとがあるようだった。読書の最中にもため息を付いたり、本を途中で閉じてしまったりする。今までの先輩にはないことだったので、気になった。
友人に相談すると、「おまえはストーカーか」と小突かれた。
「そんなに気になるなら、手紙でも送れば?」
「手紙? 最近悩んでますね、みたいな?」
「そりゃキモいな。俺が校則女ならますます暗い気持ちになるね」
友人には馬鹿にされただけだったが、手紙、はいい案だなと思った。
俺は悩んだ末、先輩の靴箱に一通の手紙を入れた。
文面には、俺が以前先輩にお世話になったことと、最近先輩の表情がすぐれないので気になっていることを書いた。それから、もし愚痴があるのなら、こぼしてみてください。と書いて、自分のメアドを書き留めた。
俺の名前は出さなかった。名前を知らない相手の方が、愚痴をこぼしやすいと思ったのだ。
その手紙に、文庫本をつけて先輩の靴箱に入れた。文庫本は、ヤクザと女の子の日常を描いたちょっとシュールな小説で、面白く、読むと気持ちが明るくなるような話だった。
俺のメアドに返事がなくてもいいと思った。ただ、その本を読んで先輩の気持ちが上向いてくれればいいと思った。
その日の夜、俺の携帯に返信があった。期待していなかったので、びっくりした。
お手紙ありがとうございます。誰かが自分のことを気にしてくれると思うと、とても嬉しい気持ちになりました。小説、今読んでます。面白いですね。今日はいい夢が見られそうです。
絵文字も改行もない文面が、クールな先輩らしかった。そして俺のストーカーじみた手紙に返事をくれるのだから、やっぱり先輩は優しい人なのだと思った。
俺はすぐに返信をした。楽しんでくれたなら良かったです、と送ると、先輩からも返信。
本当に、ありがとう。
嬉しくて、俺はその夜メールを見ながら眠った。