短い夢物語2
□愚かゆえにいとおしい
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「・・・何のようだ。」
ムスッとした表情(実に不愉快そうだが)で私を見(つめ)てくるのは猫の耳と尻尾をはやし、猫のように威嚇してくるチェシャ猫。赤色の瞳が私の視界に入り、ぞくりとする。
「別に?強いていえばそうですねぇ・・・会いたかったから、デスヨ。」
「チェシャ猫は会いたくなかった。」
フンッっそっぽを向くチェシャ猫に苦笑を漏らす。私の能力が苦手な彼は必要以上に私に近寄ろうとしない。かなり開いたその距離が、狂おしいほどにじれったい。
私は、チェシャ猫に触れたいと言うのに。
「ありすを傷つけにきたのか?」
「違いますよ。先程も言ったでしょう?」
あなたに会いたかったからデス、と。
そう、囁くように言えばチェシャ猫は眉間にシワをよせる。
「なんでだ?」
「はい?」
「なんでチェシャ猫に会いたかったんだ?」
思いもよらぬ質問に、こちらがキョトンとしてしまう。チェシャ猫は本当に不思議そうに聞いてくるので、それが可笑しくて堪らない。
実に、愚かで。
「・・・さぁて、ネ。」
教えるつもりはない。この気持ちを。時たま(こんなにもわかりやすく)アピールはしているが、気づかないチェシャ猫が悪い。お嬢様は非常にわかりやすい、と言っていたのに。
だから、気づかないチェシャ猫は愚かで。
けど、けれど、
「・・・フフッ。」
「?どうした?」
「イエ、何も。」
ツイ・・・と目を細めてチェシャ猫を見遣る。チェシャ猫は首を傾げたが、興味なさそうにふーんと返事を返した。
「用はすんだか?」
「えぇ。」
「じゃあ帰れ。」
「連れないですねェ。」
わざとらしく肩を竦めて、後ろを振り返る。一度チェシャ猫に視線をやれば、機嫌悪そうに尻尾が揺れていた。
「・・・ヤレヤレ。」
この気持ちには、まだまだ気付いてもらえないようデスネ。
・・・まぁ、
「そんな愚かなあなたがいとおしいんですけどネ。」
クツクツと笑い、私はチェシャ猫の前から姿を消した。
愚かゆえにいとおしい
猫は気づかない。
帽子屋の気持ちに。
そんな愚かな猫に、
好意を寄せる帽子屋は
ただ不気味な笑いを零すだけ。
愚かだと、蔑んで、
そしてそんなあなたが
とてもいとおしいんだ、と。
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