短い夢物語5

□偽った笑顔の下は
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「なぁカクー?」

ぺったんぺったん、と判子をつまらなそうに押す長官の声に、わしは笑顔を作り、なんじゃ?と聞く。

「一つ、聞いていいか?」

「・・・わしに答えられることじゃったら。」

何を言いたいんじゃ、この長官は。

目をパチクリとさせ、わしは長官を見る。長官は判子を押すのを止め、わしを見る。真剣な表情で。

「・・・お前は、」

「・・・。」

長官が一旦、口を閉じる。と、プルルルルと電電虫がなる。

「・・・長官、鳴っとるぞ。」

「・・・お前は、」

「長官。」

「・・・おれだ。」

わしが長官をたしなめるように呼ぶと、仕方ないとでも言うように長官は電話に出る。

それを見てわしは長官から一回、目を反らし、また見る。

長官が聞こうとしたのはだいたいわかる。否、何時かは聞かれると思っておった。

「・・・あぁ、わかった。」

電話がきれる。長官がわしをまた見る。視線が重なる。何故か反らすことが出来ない。

「カク、お前は、」

「・・・長官、」

「お前は、おれのこと、」

「わしは、」




















「嫌い、なんだろ?」




















「・・・。」

真剣な表情の長官の口から言われた言葉に、わしはやっぱり、と思った。

わしと長官はいわゆる、身体だけの関係というものだった。





そう、だった。





今は、恋人。





一応、恋人。





「・・・長官、」

「おれは、おれは、・・・。」

顔がくしゃりと歪む。真剣な表情じゃなくなり、泣きそうな。

わしは長官から目をはなさず、口を閉ざす。















「おれは、お前のこと、好き、だぞ・・・?」















「・・・長官・・・。」

ポロポロと長官の瞳から涙が溢れる。

「おれは、好きだぞ・・・?なぁ、お前は・・・?」

「わし、は・・・。」

わしは別に、長官のことなんか好きではない。身体だけの関係を持ったのは、長官がどうしてもと言ってたからだ。

だから、わしは、別に、好きなんかじゃない。

寧ろ、嫌い。

嫌い、のはず。

でも、長官が泣いてるから。本当のことを言えば、縛り首になりそうじゃったから。





だから、





「わしもじゃよ。」

笑顔で嘘を吐いた。






























偽った笑顔の下は






























(笑って言えば、長官は安心したように笑って)(わしはそれを見て)(目を反らした)

(純粋に喜ぶ、長官を見ていられなかったからじゃ)





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